ある保険会社が2026年7月に発表した調査結果によると、日本の成人の多くが、高齢期において「自立」を非常に重視していることが明らかになりました。しかし、その強い思いと実際の備えや行動との間には、大きなギャップが存在するようです。
調査が示す日本人の「自立」への強い思いと現実
マニュライフ生命保険株式会社がアジアの9つの市場で実施した「アジア・ケア・サーベイ 2026」によると、日本の回答者の80パーセントが「できるだけ長く自立を保ち、他人の負担にならないこと」を長寿の目標として掲げています。これはアジアの中でもトップクラスの高い数値であり、日本人の自立志向の強さを物語っています。
背景には、若年人口の減少や家族構造の変化といった社会の変化があります。かつては高齢期の支えとして期待された、子どもからの経済的支援を当てにしている人は、日本ではわずか7パーセントにとどまりました。これはアジア全体の平均19パーセントと比べて低い水準です。「未来の若い世代に負担をかけたくない」という強い意識の表れと考えられます。
しかし、この「自立したい」という想いは、特に若い世代において、将来への不安としても顕著に現れています。25歳未満の回答者では、86パーセントが将来の介護費用の負担を不安に感じているという結果が出ています。これは、人生の早い段階から将来の経済的備えに対する危機感が高まっていることを示唆しており、早期からの計画の重要性が浮き彫りになりました。
- 自立を目標とする日本人:80パーセント
- 子どもからの経済支援を期待する人:7パーセント
- 25歳未満で介護費用を不安に思う人:86パーセント
深刻な「認識と行動のギャップ」
多くの人が自立を強く望む一方で、その実現に向けた具体的な行動には大きな隔たりがあることが、調査で明らかになりました。特に、健康と経済の両面で、意識と現実の間に埋めがたい溝があるようです。
健康面では、調査対象者の63パーセントが少なくとも年に1回は健康診断を受けており、アジア平均の50パーセントを上回る結果となりました。これは、自立を支える「健康資本」を築くことの重要性が、比較的高く認識されていることを示しています。しかし、日々の生活における行動は、その意識に追いついていません。定期的な運動やバランスの取れた食事といったセルフケアが十分でなく、「まったくセルフケアをしていない」と答えた人は16パーセントに上りました。
| 項目 | 日本の数値 | アジア平均 |
|---|---|---|
| 健康診断受診率(年1回以上) | 63% | 50% |
| 「まったくセルフケアをしていない」人 | 16% | 調査データなし |
経済面でのギャップは、さらに顕著です。将来の介護費用の負担に不安を感じている人は全体の75パーセントに達しています。これほど多くの人が将来の出費を心配しているにもかかわらず、実際に老後資金の準備を全くしていない人は16パーセント、将来の経済的な安心のために具体的な行動を取っていない人は28パーセントに上ります。この「行動を取っていない」人の割合は、アジアの他の市場と比べても最も高い水準となっています。
高い不安を感じながらも具体的な備えに動けない人の割合が、特に日本で大きい傾向にあります。これは、どこから手をつければよいか分からないという「最初の一歩」の難しさを示していると考えられます。
行動を阻む壁は「最初の一歩」の踏み出しにくさ
自立した老後を願う気持ちは強いものの、その準備を具体的に進められていない現状が明らかになりました。調査では、多くの人々が最初の一歩を踏み出すための「きっかけ」を掴めずにいることが分かっています。
具体的には、将来の資金計画について家族と話し合うことの大切さを感じている人は44%に上ります。しかし、実際に自分の老後の希望や必要なお金について家族と話し合った経験がある人は約3割にとどまっています。つまり、約3人に2人が一度もこの重要な対話をしたことがない計算です。
話し合いをしない最大の理由は、「どこから話し始めればよいか分からない」(30%)でした。次いで「まだ時間があると思っている」「気まずいから」といった理由が続いています。
家族との対話不足とその理由
この「どこから始めればよいか分からない」というのは、多くの人が抱える本音でしょう。老後資金や介護の問題は複雑で、何をどう切り出せば良いのか迷ってしまうものです。さらに、子ども世代に負担をかけたくないという思いから、話題にすること自体を避けてしまう傾向も見られます。
専門家のアドバイス利用率の低さ
家族との対話と同様に、専門家への相談も進んでいません。調査では、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談したことがある人のうち、78%が「生活の質が高い」と感じているという結果が出ています。相談経験のない人で同じように感じている人は38%であり、専門家のアドバイスを受けることによる生活満足度の向上は明らかです。
しかし、日本において実際に専門家に相談したことがある人はわずか6%で、これは調査対象となったアジアの市場の中で最も低い水準です。高い効果が実感されているにもかかわらず、それを利用する人が極めて少ないという矛盾が浮かび上がりました。
- 「どこから話し始めれば?」家族との対話のきっかけは?
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難しい話題だからこそ、小さな一歩から始めるのがおすすめです。例えば、ニュースで年金や介護の話題が出た時に「うちはどうしようか」と軽く切り出す、あるいは「もしもの時の連絡先は共有しておこう」といった、ごく身近で具体的な話題から始めてみると、話が広がりやすいでしょう。大切なのは、一度ですべてを決めようとせず、何度かに分けて少しずつ話し合うことです。
専門家コメントから読み解く、今後求められるアプローチ
調査結果に示された「認識と行動のギャップ」を埋め、自立した人生100年時代を実現するには、どのような視点が必要なのでしょうか。発表を行った企業の担当者は、単なる「長生き」だけでなく、「よりよく生きる」ための資産の備え方の重要性と、そのための具体的な一歩を踏み出す必要性を指摘しています。
同社の代表者は、長寿化が進む現代においては、単に長く生きる年数だけでなく、「望む生き方を支えるだけの金融資産をどれだけ長く維持できるか」という「資産寿命」の視点が重要だと述べています。意欲だけでは不十分であり、明確なプランと、第一歩を踏み出すための自信が必要であると指摘しました。
この「資産寿命」の視点は、経済環境の変化とも密接に関わっています。同グループの資産運用会社の代表者は、日本がデフレからインフレへと経済環境が転換したことを背景に、老後に向けた準備は「貯めておく」静的なものから、「運用して増やす」動的なものへとシフトしていると説明しています。調査でも、将来の経済的な安定に向けた行動を取っていない人の割合がアジアで最も高いことなどが明らかになっており、より早期かつ体系的なアプローチが求められているのです。
「ウェルススパン(資産寿命)」の視点
「資産寿命」とは、言い換えれば「お金が心配なく生活できる期間」です。長生きするほど、この期間を長く保つ必要があります。調査では多くの人が自立を望みながら資金面で不安を抱えていること、また、家族への依存が低下していることが示されました。この現実を直視し、長い期間にわたって資産を適切に管理・運用していく計画を立てることが、自立した老後を支える土台となります。
「貯める」から「運用する」へのシフト
インフレが進行する環境では、お金の価値が目減りするリスクがあります。単に銀行口座にお金を預けているだけでは、実質的な購買力が低下してしまう可能性があるのです。そのため、長期的な視点に立った資産形成、つまり投資を視野に入れた備えが重要になってきます。しかし、調査では投資への関心は高いものの、損失への不安や商品選択の難しさが行動を妨げている現状も明らかになりました。
生命保険は、「資産寿命」を考える上で重要な役割を果たすことがあります。死亡や病気・ケガによる大きな出費に備える保障機能は、急な出費で蓄えた資産が大きく目減りするリスクを軽減します。また、養老保険や個人年金保険などは、貯蓄と保障を兼ねた商品として、長期的な資産形成の一つの選択肢となり得ます。資産寿命を延ばすためには、保障と資産形成をバランスよく組み合わせた総合的な計画が有効です。
両者のコメントに共通するのは、専門家によるアドバイスへのアクセスを容易にし、金融リテラシーを高めることの重要性です。調査でも、専門家に相談した人は生活の質が高いと感じている割合が2倍以上になる一方で、日本の相談率はアジアで最も低いというギャップが示されていました。この状況を打破するためには、信頼できる情報源を見つけ、小さな一歩からでも計画を始めることが、長い人生を通じた自立と安心につながると考えられます。
自立した老後に向けて、今からできる3つの第一歩
調査結果が示した高齢期の自立という希望と、それを阻む行動の遅れという現実。このギャップを埋めるためには、漠然とした不安を具体的な第一歩に変えることが大切です。ここでは、今日から実践できる三つの行動をご紹介します。
調査では、老後の希望やお金の話を家族と話し合ったことがある人は約3割にとどまりました。話し合いを始められない理由として最も多かったのは、「どこから話し始めればよいか分からない」ことでした。堅苦しく考えず、家族で食事をしながら「将来、どんな風に過ごしたいか」という希望や、「もしも」の心配事をざっくばらんに話し合う時間を設けてみましょう。話し合うことで、お互いの想いを理解し、共通の目標が見えてきます。
専門家に相談したことがある人の78パーセントが生活の質が高いと感じている一方で、日本では相談経験がある人はわずか6パーセントです。この大きな差は、専門家のアドバイスが生活の質向上に役立つ可能性を示しています。いきなり具体的な商品の話をする必要はありません。まずは「将来のお金の不安について話を聞きたい」という気持ちだけで、無料の相談会やオンライン相談などを利用してみるのがおすすめです。最初の一歩は、聞くだけでも充分なのです。
将来の介護費用に不安を感じている人は75パーセントに上りますが、行動を取っていない人も28パーセントいます。まずは、今の収入と支出を把握することから始めましょう。その上で、例えば「毎月の飲み代から1,000円を積立投資に回す」「加入している生命保険の保障内容を改めて見直す」といった、負担の少ない小さな一歩を設定することがポイントです。大きな金額を用意しなければ始められないわけではありません。小さくても確実に続けることが、長い人生を支える資産の土台を作ります。
25歳未満の若年層でも、将来の介護費用に不安を感じる人は86パーセントにのぼります。長寿に対する不安は、人生の早い段階から始まっているのです。だからこそ、今すぐ完璧な計画を立てる必要はなく、小さな一歩を踏み出すこと自体に大きな価値があります。今日考え、今日始めたその行動が、何十年後かの自立した生活を支える力になるでしょう。
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