株式会社ニュウジアは、2026年8月14日より、デジタル遺品を安全に継承するサービス「継承金庫(キーバトン)」の提供を開始したと発表しました。このサービスは、スマートフォンのロック解除方法やネット銀行のIDなど、「本人しか知らない情報」を、本人の端末内で暗号化したうえで保管し、万が一の際にのみ指定された家族へ引き継ぐ仕組みです。最大の特徴は、運営会社自身も暗号化された情報の中身を閲覧できない設計を採用している点です。これにより、個人情報のセキュリティを従来の方法よりも高めています。
増え続けるデジタル遺品問題、遺族の多くが困っている現実

近年、デジタル遺品への対応は多くの遺族が直面する課題となっています。厚生労働省の人口動態統計速報によると、2025年の死亡数は160万5,654人でした。その多くがロックのかかったスマートフォンを遺しています。ある調査では、故人のスマートフォンのロック解除を試みた遺族のうち、解除に成功しなかった人の理由として「解除が現実的に不可能だと分かった」「労力がかかりすぎる」「パスワード誤りの上限回数に達した」が上位を占め、合計で74%に達しました。
遺品整理経験者を対象とした別の調査では、約39%がデジタル遺品で困った経験があると回答し、そのうち約4割は最終的に解決できなかったとしています。独立行政法人国民生活センターも、デジタル遺品による遺族の混乱を防ぐ「デジタル終活」の重要性を指摘しています。
スマホロック解除に成功した遺族はわずか24%、公的機関も警鐘を鳴らす「デジタル終活」の必要性
実際にロック解除に成功した遺族の多くは、「故人が普段使っていたパスワードを試す」や「生年月日などから推測する」といった方法を用いています。これはスマートフォンのセキュリティが今後さらに強化されることを考えると、持続可能な方法とは言えません。弁護士のコメントでは、今後遺族による解除はさらに難しくなると予想されています。
この問題は、入院や認知症など、本人が生前に情報を伝えられなくなる状況でも家族を困らせる可能性があります。ネット銀行やサブスクリプションサービスは、口座の存在自体が家族に知られないまま、または解約できないまま放置されるリスクがあるのです。独立行政法人国民生活センターも、ネット銀行の口座確認のためにロック解除を依頼したが断られた事例や、サブスクリプションを解約できなかった事例を紹介しています。
「継承金庫(キーバトン)」とは?預けられる情報とその仕組み

「継承金庫(キーバトン)」は、スマートフォンのロック解除方法やネット銀行のIDなど、本人しか知らない大切な情報を、万が一の際に確実に家族へ引き継ぐための仕組みです。最大の特徴は、情報を預かる運営会社自身も、暗号化された情報の中身を読み取ることができない設計にあります。これは、単に情報を預かるだけの従来型サービスとは一線を画す、セキュリティと信頼性を追求した構造です。
スマホのパスワードから資産情報まで、遺言書には書けない情報を預ける
このサービスでは、以下のような多様な情報を預けることができます。
- スマートフォンやパソコンの暗証番号
- ネット銀行、ネット証券、暗号資産のIDや口座の存在
- 契約中のサブスクリプションと、解約に必要な情報
- SNSアカウントとその後の扱いに関する意思
- 保険証券、実印、権利証などの「しまい場所」
- ご家族へのメッセージ
これらの情報は、遺言書やエンディングノートに直接書き込むことは一般的に推奨されません。なぜなら、その紙自体が重要な秘密情報となり、盗み見や紛失のリスクを高めてしまうためです。継承金庫は、「遺言書には書けないけれど、家族に伝えておきたい情報」を安全に保管する場所として設計されています。
「3つの条件」が揃わないと開示されない安全設計
情報を預けても、運営会社が中身を閲覧できないなら、いざという時にどうやって家族に渡すのでしょうか。その核心となるのが、厳格な「3つの開示条件」です。この条件は、誤った開示を防ぐための堅牢な安全装置として機能しています。
ご本人が生前に家族に手渡した「継承キー」と呼ばれる紙に記載された固有のコードを照合します。このキーはご本人の端末で生成され、運営会社のサーバーへは送信されません。
遺族による開示請求が行われると、ご本人にはメールとLINEで即座に通知されます。通知後、既定で14日間(7〜30日の範囲で設定可能)の間、ご本人は簡単な操作で請求をストップし、金庫を凍結できます。生存確認への無応答だけでは開示されません。
死亡届記載事項証明書や死亡診断書の写しなど、公的な書類の提出と確認が行われます。
この3つのステップがすべて満たされた場合にのみ、初めて情報の復号と開示が実行されます。長期入院や旅行、端末の紛失など、死亡以外の理由で家族に情報が渡ってしまうリスクを、システムの根本的な設計で防いでいます。
保険証券の保管場所や実印のありかを伝えることも可能です。これは、入院などで意識がない期間がある場合や、認知症により本人が暗証番号を思い出せなくなった場合など、「亡くなった後」だけでなく「生きている間の緊急時」にも家族を助ける情報となり得ます。
なぜ安全と言えるのか?「二重鍵」構造と他の方法との違い

「継承金庫(キーバトン)」の最大の特徴は、情報を預かる運営会社自身も、暗号化された情報の中身を読み取れない設計にあります。この仕組みは、従来の「紙に書いて保管する」方法をはるかに上回るセキュリティを実現しています。
鍵を分割して保管、事業者自身も復元不可能
このサービスでは、まずスマートフォンのロック解除方法やネット銀行のIDなどの情報が、ご本人の端末(ブラウザ)内で「AES-256-GCM」という高い強度の方式で暗号化されます。運営会社のサーバーが受け取るのは、すでに暗号化されたデータのみです。
さらに重要なのが、暗号を解くための「鍵」を分割して管理する仕組みです。「シャミアの秘密分散法」という技術を用いて、鍵を2つの断片に分割します。
- 1つ目の断片は「継承キー」として印刷し、ご本人から家族に直接手渡しします。この紙はサーバーに送信されません。
- 2つ目の断片は、運営会社がサーバーで暗号化して保管します。
この2つの断片のどちらか一方だけでは、元の情報を復元することはできません。運営会社は2つ目の断片を預かっていますが、家族が持つ1つ目の断片がなければ何も開けられないのです。情報の復号(解読)も、家族の端末内で行われ、運営会社のサーバー上では行われません。
従来のサービスでは、事業者が情報を「平文(そのまま読める状態)」で預かっているケースもありました。この「二重鍵」構造は、事業者が情報の中身にアクセスできない設計であり、情報漏洩リスクを原理的に低減しています。
従来の方法と比較した「継承金庫」の優位性
| 方法 | 課題 | 継承金庫の解決策 |
|---|---|---|
| 紙に書いて自宅に保管 | 見つけた人が誰でも読めてしまう。見つけられるかは運次第。 | 情報は暗号化され、鍵は分割。物理的な紙(継承キー)は復元に必要な一部に過ぎない。 |
| 貸金庫に預ける | 開扉手続きに時間と費用がかかる。緊急時にすぐに取り出せない。 | 必要な書類が揃えばオンラインで開示。ご遺族の開示手数料は0円。 |
| パスワード管理アプリの緊急アクセス機能 | 受け取る側にも同じアプリの利用と操作知識が必要。 | 専用のWebブラウザでアクセス可能。複雑な操作は不要。 |
| 無活動を条件とする自動開示サービス | 長期入院や端末紛失など、死亡以外の理由でも作動する可能性がある。 | 死亡を確認する書類の提出など、厳格な3条件が揃った時のみ開示。生存中の誤作動を防ぐ。 |
また、多くの大手プラットフォームの死後アクセス委任機能では、パスワードそのものが引き継ぎ対象から除外されている場合があります。これに対し「継承金庫」は、運営会社が読めない構造と、書類確認を含む3段階の開示審査という二重の安全装置によって、こうしたデリケートな情報の継承に取り組んでいます。
安全性を考えると、「紙に書く」以上の確実な方法が求められる時代です。「継承金庫」は、デジタル遺品の問題に対して、技術的な誠実さと現実的な使いやすさの両立を目指した新しい選択肢と言えます。
これは「終活」だけではない。入院や認知症など「もしも」の備えにも

デジタル資産の継承について考えるとき、多くの人は「亡くなった後の問題」と捉えがちです。しかし、実際には入院や認知症など、ご本人が生きながら情報にアクセスできなくなる状況でも、家族は大きな困難に直面します。例えば、入院して意識がない場合に保険証券の保管場所が分からなかったり、認知症で暗証番号を思い出せなくなり、ネット銀行の口座が相続手続きから漏れてしまうケースもあるのです。これらの問題は、ご本人が元気なうちにしか準備できないことがほとんどです。
デジタル遺品の問題が新しいのは、いま亡くなられている世代が若かった頃にはスマートフォンやネット銀行が一般的ではなかったからです。エンディングノートという文化が生まれたのと同様に、デジタルの引き継ぎもこれからは当然の備えとなりつつあります。
以下の項目に一つでも当てはまる方は、ご家族がデジタル情報で困る可能性があります。
- スマートフォンにロック(暗証番号・パターン・生体認証)をかけている
- ネット銀行・ネット証券・暗号資産のいずれかを利用している
- サブスクリプションを2件以上契約している
- 家族が知らないメールアドレスやSNSアカウントを持っている
- スマートフォンの暗証番号を、家族の誰にも伝えていない
特に、上記の項目のうち3つ以上に該当し、かつ「スマートフォンの暗証番号を家族に伝えていない」場合、万が一のことがあった際に、ご家族がご自身のデジタル資産に到達できない可能性が高くなります。
利用方法、料金、そして知っておくべき「できないこと」
継承金庫の使い方は、大きく分けて「預ける」「見守る」「渡す」の3ステップです。また、現在は無料で利用できる点と、将来的な料金プランについても説明します。さらに、利用を検討するうえで欠かせない、サービスが「できないこと」についても明確に提示されている点が、利用者にとって安心材料となるでしょう。
3ステップの簡単な使い方
まず、自分だけが知る「あいことば」を決め、伝えたい情報を入力します。入力内容は送信前にご本人のブラウザ内で暗号化されるため、平文(そのまま読める状態)がインターネット上を流れることはありません。
定期的にメールまたはLINEで生存確認のご連絡が届きます。ワンタップでお返事いただくことで、生存のしるしとして記録されます。TalkMemorial.AIへのログインや編集も、同様に記録されます。
あらかじめ指定した継承者へ情報を引き継ぐために、ご本人の端末で「継承キー」がPDFとして生成されます。この紙に印字された鍵の断片は、運営会社のサーバーへ一度も送信されません。印刷してご家族へ直接手渡しします。
現在無料、将来の想定価格とその理由
継承金庫のご利用は現在無料です。また、ご遺族が情報を受け取る際の開示手数料は0円です。同社によると、費用が発生する瞬間が家族にとって最も余裕のない時期と重なるため、このような設計にしたとしています。
将来の想定価格は、スタンダードプランが年額9,800円、プレミアムプランが年額19,800円です。これは1日あたり約27円から55円程度の計算となります。同社は、事後にデジタル遺品の調査やロック解除を専門業者へ依頼する場合と比較し、生前の準備の方が確実で安価であると説明しています。
- 「あいことば」を忘れた場合、当社を含むいかなる方法でも、ご本人による閲覧は復元できません(ご家族へお渡しする継承キーは別に発行されるため、もしもの時のお引き渡しには影響しません)。
- 遺言書の代わりにはなりません。相続の法的効力は遺言書にあります。
- 相続手続きの代行はしません。口座の解約や名義変更は各金融機関等の正規の相続窓口をご利用ください。継承金庫は「どこに何の契約があるのか」を伝えるためのものです。
- 提出書類(死亡届記載事項証明書、除籍謄本、死亡診断書の写しなど)の確認は形式的なもので、真正性を保証するものではありません。
- 見守り機能は、死亡を医学的に判定するものではありません。
また、故人のIDやパスワードを無断で使用してログインする行為は、不正アクセス禁止法に抵触するおそれがあります。継承金庫ではご本人による「継承者の使用を許諾する」旨の明示的な同意を記録し、開示直前の画面でも継承者に法令遵守と正規の相続窓口の利用を案内しています。
これらの「できないこと」を明確にしている点は、利用者に過剰な期待を持たせず、サービスの限界を正しく理解した上で利用を判断できるようにする誠実な姿勢の表れと言えます。デジタル遺品問題への備えとして、その機能と役割を正しく位置づけることが大切です。
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