医療保険は本当に必要なのでしょうか。保険料を払い続けても使わないまま終わるなら、その分を貯蓄に回したほうが得ではないかと考える人も多いはずです。実際、日本には高額療養費制度や傷病手当金といった公的な支えが用意されており、医療費の負担はある程度抑えられます。
とはいえ、入院が長引いたり収入が途絶えたりすれば、公的制度だけでは足りない場面も出てきます。この記事では、公的医療保険がカバーしてくれる範囲を確認しながら、医療保険の必要性をどう判断すればよいのかを整理していきます。
医療保険の必要がない理由
公的医療保険制度が充実している日本では、個人で医療保険に加入する必要性は高くないという見方があります。まずは、入院や治療にかかる費用をどこまで公的制度が支えてくれるのか、その内容を確認しておきましょう。
高額療養費の制度がある
高額療養費制度は、1カ月の医療費が一定額を超えた場合に、その超えた分の払い戻しを受けられる制度です。つまり、1カ月分の医療費における実質的な自己負担額は、この制度が定める限度額を超えないよう仕組まれています。ただし、差額ベッド代や食事代はこの限度額の対象に含まれない点には注意が必要です。
1カ月あたりの自己負担限度額は、年齢や収入によって異なります。70歳未満の人の限度額は2026年8月(令和8年8月)から見直され、次のように変更されています。
| 標準報酬月額 | 自己負担限度額(2026年8月以降) |
|---|---|
| 83万円以上 | 270,300円+(総医療費-901,000円)×1% |
| 53万〜79万円 | 179,100円+(総医療費-597,000円)×1% |
| 28万〜50万円 | 85,800円+(総医療費-286,000円)×1% |
| 26万円以下 | 61,500円 |
| 低所得者(※) | 35,400円 |
※生活保護の被保護者や市町村民税非課税世帯などが対象です。
標準報酬月額とは、4月・5月・6月の給料の平均額を指します。なお、標準報酬月額26万円以下の人については、この改定にあわせて年間の負担上限額も新たに設けられました。長期入院や複数回の通院が続く場合でも、年間でみた負担が一定の範囲に収まる仕組みです。
この制度を1年間に4回以上利用した場合、4回目以降は「多数回該当」として限度額がさらに下がります。何度も治療を受けることになっても、負担が際限なく膨らむわけではないという点は覚えておいて良いでしょう。
70歳以上75歳未満の人の限度額は、以下の通りです。
| 区分 | 外来(個人単位) | 外来 + 入院(世帯単位) |
|---|---|---|
| 現役並み所得者 | 44,400円 | 80,100円 +( 医療費 - 267,000円 )× 1% |
| 一般 | 12,000円 | 44,400円 |
| 低所得者Ⅱ(※) | 8,000円 | 24,600円 |
| 低所得者Ⅰ(※) | 8,000円 | 15,000円 |
※低所得者Ⅱは市町村民税非課税世帯に属する人、低所得者Ⅰは市町村民税非課税世帯のうち一定基準所得に満たない人(年金収入80万円以下など)を指します。現役並み所得者にあたる人がこの制度を年に4回以上利用した場合も、70歳未満の人と同様に4回目以降の限度額は一定になります。
健康保険から傷病手当金が支払われる
企業や団体に勤務している人が加入する健康保険には「傷病手当金」という給付制度があります。被保険者が病気やケガによって仕事を連続4日以上休み、事業主から給料を受けられない場合に、休業4日目から支給される仕組みです。支給期間は最長1年6カ月で、事業主から一部給料を受けている場合はその額を差し引いた金額が支払われます。
手当金額の計算には「支給開始前月から直近12カ月間における標準報酬月額の平均」が使われます。この平均額を30日で割り、その3分の2に相当する額が1日あたりの支給額です。平均標準報酬月額を26万円として計算すると、次のようになります。
260,000円 ÷ 30日 × 2/3 = 5,780円(1日あたりの支給額)
30日で割った際に生じる1の位は四捨五入し、小数点第1位が出た場合もあわせて四捨五入します。会社員であれば、入院中も一定の収入が確保される仕組みが用意されていることが分かります。
医療保険が必要な理由
ここまで見た高額療養費制度や傷病手当金は、たしかに心強い仕組みです。それでも、公的制度だけでは対応しきれない場面が出てくるのはなぜでしょうか。入院の長期化と、それに伴う精神的な負担という2つの側面から考えてみます。
入院期間が長期になることもある
高額療養費制度や傷病手当金が整っていても、収入の減少や医療費の出費そのものは避けられません。入院期間が長くなるほど貯蓄の切り崩しは増え、生活費と治療費の両方を工面しなければならなくなります。治療に専念したいはずなのに、費用の心配で気が休まらないという状況も十分に考えられます。
入院したときの精神的な負担が軽減できる
医療保険に加入していれば、入院時の費用補助を受けられるため、経済面での不安はある程度軽くなります。ケガや病気の程度によって入院の長期化が見込まれる場合はなおさら、お金の心配を減らせることの意味は大きいはずです。治療そのものに集中できる環境を整えておくことは、回復にも良い影響を与えるでしょう。
医療保険が特に必要となる人とは
医療保険の必要性は、誰にとっても同じ大きさではありません。貯蓄の状況や働き方によって、公的制度で足りない部分の大きさが変わるためです。ここでは、特に備えを検討したほうが良いと考えられる3つのケースを紹介します。
貯蓄が十分にない人
入院期間の長さにかかわらず、入院には必ず費用がかかります。毎月の生活維持費に医療費が重なるため、貯蓄に回せるお金が減ったり、すでにある貯蓄を切り崩さざるを得なくなったりするケースも考えられます。十分な貯蓄がない人や、貯蓄を減らしたくない人にとって、医療保険は心強い備えになるでしょう。
自営業の人
自営業者が加入する国民健康保険には、会社員の健康保険にある「傷病手当金」がありません。そのため、一度入院すると収入が途絶えてしまう可能性があります。一時的な休業や業務の代行を頼めたとしても、事業を維持するための経費はかかり続けます。治療に専念するためにも、仕事と経済面の両方の不安をあらかじめ解消しておきたいところです。
主婦(専業主婦・主夫)
収入のない主婦や主夫が入院すると、子供の年齢が低いほど必要な経費は増える傾向にあります。ベビーシッターや家事代行サービスの利用、子供を幼稚園や保育園に預ける手配など、家計への影響は思いのほか広がりやすいものです。扶養に入っている人には傷病手当金の制度がないため、医療費への備えはより重要だといえます。
まとめ
医療保険の必要性は、置かれている環境や加入している健康保険の種類、貯蓄の有無、貯蓄に対する考え方など、さまざまな要素によって変わります。会社員か自営業か、扶養に入っているかどうかでも、公的制度が補ってくれる範囲は大きく異なります。
もし入院したら自分の生活にどのような変化が起こるのか、どのお金がいくら必要になるのかを具体的に把握しておくことが、判断の第一歩です。公的制度でカバーできる範囲と、そこから漏れる部分を整理したうえで、医療保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。




