2026年7月、ある通信困窮者支援事業者による調査が発表されました。その結果、従来の健康保険証が使える特例措置の終了について多くの人が情報を得られておらず、特に経済的に厳しい状況にある方々の手続きが進んでいない実態が明らかになりました。2026年7月末の期限が迫る中、この調査結果は制度の周知と支援の必要性を浮き彫りにしています。
発表された調査結果:多くの人が手続き未完了、特に低所得層で顕著

調査は2026年7月13日から17日にかけて実施され、過去に携帯電話を持てなかった時期や通信が止まっていた時期がある481名を対象としています。調査結果によると、保険証の特例措置が終了することを「知らない」と回答した人は約55.7パーセント(268人)に上りました。
さらに、マイナ保険証への登録や資格確認書の受け取りといった必要な手続きを「まだ完了していない」または「わからない」と答えた人は全体の約51.6パーセント(248人)と、約半数の人が手続きを終えられていない現状が示されています。
- 特例終了を「知らない」人:約55.7パーセント
- 手続きが「未完了/わからない」人:約51.6パーセント
- 調査対象:過去に通信環境に困難を抱えた経験がある481名
- 調査期間:2026年7月13日から7月17日
収入が低いほど手続きが進まず、認知度の差はほぼなし
この調査で特に注目すべきは、手続きの完了状況に経済的状況による明確な差が生じている点です。月収別の内訳を見ると、月収10万円未満の層では手続き未完了率が61.8パーセントと高くなっています。一方、月収15万円以上の層の未完了率は42.4パーセントであり、両者には約20ポイントの差が開いています。
興味深いことに、制度の終了を「知っている」と回答した人の割合(認知度)は、月収10万円未満の層と月収15万円以上の層とでほぼ同等(約56パーセント)でした。つまり、情報を知っているかどうかではなく、知った上で実際に手続きを完了できるかどうかに、経済的要因が影響している可能性が示唆されています。
調査を実施した事業者は、この結果を受け、手続きが進まない要因を個人の意識の問題として片付けるべきではなく、能動的な支援の仕組みと、その前提となる通信手段の確保が社会的セーフティーネットとして必要であると指摘しています。
なぜ今、マイナ保険証への切り替えが必要なのか

調査結果から見えてきたのは、期限が迫っているにもかかわらず多くの人が手続きを完了できていない現状です。特例措置が終了するのは2026年7月末であり、これは遠い将来の話ではありません。結婚や出産などでライフステージが変わり、家族の健康保険証を新しく作る必要が出てくるタイミングの方にとって、この切り替えは特に重要な意味を持ちます。
2026年8月以降は、現行の健康保険証だけではその場での保険診療(通常1割から3割負担)が受けられなくなる見込みです。診療を受けるためには、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」、または保険者から発行される「資格確認書」のいずれかが必要になります。
これは、健康保険証のデジタル化を進める国の方針に基づく変更です。つまり、これまでの紙の保険証に代わる新しい仕組みへの移行が進んでいるのです。手続きが完了していないと、いざ病院にかかろうとした際に、全額自己負担となる可能性もあります。経済的に厳しい時期だからこそ、保険証の切り替えは健康を守るための基盤となる重要な手続きと言えるでしょう。
調査から見える「手続きの壁」:スマホがないとさらに困難

手続きが進まない背景には、デジタル手続きそのものに対する不安や実際の困難があることが調査から見えてきました。調査では、回答者の84.6%が「スマホやネット環境がないと、マイナポータルなどの国のデジタル手続きができない・難しい」と感じていると回答しています。
この結果は、今回の調査対象者が「過去に携帯電話を持てなかった時期がある」という特徴を持つことを考えると、より深刻な意味を持ちます。回答者は現在は通信環境を取り戻していますが、その経験から「スマホがなければ難しかった」と振り返っているのです。このことは、現在もスマホを持てずにいる方にとって、マイナ保険証への切り替えが非常に高い壁になっている可能性を示唆しています。
知っていても手続きが進まない現実
調査では、手続きの複雑さや技術的な課題を訴える具体的な声も寄せられました。
マイナンバーの資格情報反映に時間が掛かるのもネックです(40代男性)
マイナ保険証の読み取りエラーや、顔認証がスムーズにいかなくて焦りました(40代女性)
何でも、コンピューターになってしまって、難しいと思うことがあります。出来ないと、まぁいいやになってしまいます(50代男性)
このような声からは、手続きを完了させようとする意欲があっても、システムや操作面でのハードルが障壁となり、「諦めてしまう」という現実が浮かび上がります。これは、生活保護の捕捉率の低さなど、制度があっても利用に至らない「使われない社会保障」の問題点と通じるものがあります。
従来の健康保険証が使える特例措置は2026年7月末で終了します。以降はマイナ保険証または資格確認書がなければ、その場での保険診療(1〜3割負担)が受けられなくなります。手続きはお早めに進めましょう。
マイナ保険証の登録方法と、もしスマホがなくてもできる手続き

ここでは、マイナ保険証を利用するための具体的な手続き方法について解説します。調査では、手続きの複雑さやデジタル環境の有無が完了率に影響していることが示されていました。以下では、オンラインでの手続き方法と、スマホやパソコンがなくても選択できる方法の両方をご紹介します。
マイナ保険証をオンラインで登録する主な方法
マイナ保険証を利用するには、まずマイナンバーカード(個人番号カード)が必要です。お持ちでない方は、お住まいの市区町村窓口で申請と交付を受けましょう。カードをお持ちの方の主なオンライン登録手順は以下の通りです。
スマートフォンやパソコンのブラウザから「マイナポータル」の公式サイトにアクセスします。マイナンバーカードの暗証番号(利用者証明用電子証明書のパスワードなど)を使ってログインします。
「健康保険証として利用する」などのメニューを選択し、指示に従って申請を行います。顔認証の設定や、登録済みの住所・氏名情報の確認が必要になる場合があります。
申請が完了すると、後日、マイナポータル上で利用開始が通知されます。医療機関でマイナンバーカードを提示すれば、保険証として利用できます。
調査では、手続き中に「マイナンバーの資格情報反映に時間が掛かる」や「顔認証がスムーズにいかない」といった声が寄せられていました。手続きには時間に余裕を持って取り組み、わからないことがあれば、市区町村の窓口や加入している健康保険組合(協会けんぽ等)に問い合わせることをおすすめします。
スマホやパソコンがなくてもできる選択肢
調査では、回答者の多くが「スマホがないと手続きが難しい」と感じていることがわかりました。デジタル機器の操作に不安がある方や、そもそも環境がない方は、マイナ保険証以外の選択肢があります。
それが「資格確認書」です。これは、紙の書面として発行されるもので、保険診療を受ける際に保険証としての効力を持ちます。マイナ保険証と併用することも可能です。資格確認書の発行を受けるには、以下のいずれかの方法で手続きを行います。
- 市区町村の窓口で申請する。
- 加入している健康保険組合(会社の健康保険組合)または全国健康保険協会(協会けんぽ)に直接相談する。
大切なのは、自分に合った方法を選べるということです。オンライン手続きが難しい場合は、遠慮なく窓口を頼りましょう。
| マイナ保険証 | 資格確認書 |
|---|---|
| マイナンバーカードが必要 | マイナンバーカードは原則不要 |
| スマホやパソコンでのオンライン申請が主 | 市区町村や保険者窓口での対面申請が主 |
| 診療時にカードを提示 | 診療時に紙の書面を提示 |
| デジタル機器の操作が必要 | 対面での手続きが中心 |
ライフステージの変化で保険の見直しを考える際は、新しい保険証の取得も重要な準備のひとつです。ご自身の環境や状況に合わせて、無理なく手続きを進められる方法を選んでください。
調査を行った団体と、社会的なセーフティーネットへの提言
今回の調査を実施したのは、通信困窮者支援事業を展開する「誰でもスマホリサーチセンター」です。同センターは、通信環境に課題を抱える方々の実態を調査し、社会的な支援の必要性を発信しています。
調査結果を受け、リリースでは、手続き未完了の要因を個人の意識の問題として片付けるべきではないという提言がなされています。その核心は、行政手続きを完了できるまで能動的に支援する仕組みの構築と、その大前提となる「通信手段の確保」を社会的なセーフティーネットとして組み込むことの必要性です。経済的な状況やデジタル環境の有無によって、重要な制度変更への対応に格差が生じている現実が浮き彫りになりました。
調査対象は、過去に携帯電話を持てなかった、あるいは止まっていた時期がある方々です。現在は通信環境を取り戻した彼らの経験から、「スマホがなければ難しかった」という声が圧倒的に多かったことは、現在も同様の環境にある方々にとって、デジタル手続きが大きな障壁になる可能性を示しています。
今回の調査結果は、単に保険証の切り替え手続きに関する課題だけでなく、情報から孤立してしまった方々を社会のセーフティーネットでどう支えるかという、より広範な社会的課題を投げかけています。制度の変更を知り、理解し、行動に移すまでの過程に、個人の努力だけでは埋められない溝があることを、私たちは認識する必要があるでしょう。

