個人年金保険の契約者変更を検討している方へ 贈与税と相続税の仕組みと上手な受け継ぎ方

個人年金保険は老後の資金を準備する有効な手段ですが、その資産を家族に引き継ぐ際には、契約者を変更するという選択肢があります。この変更が「贈与」に当たるのか、それとも「相続」に当たるのかによって、税金や手続きが大きく変わってきます。資産をスムーズに次世代へ渡すためには、この基本的な違いをしっかりと理解することが第一歩です。

目次

個人年金保険の契約者変更とは? 贈与と相続の違いから理解する

契約者変更は 贈与か相続かで 税金が変わる。契約者が権利義務の主体、生前変更は贈与とみなされる、死亡による変更は相続財産に、適用される税金が異なる

個人年金保険の契約者変更とは、その名の通り、保険契約上の権利と義務を第三者へ移す手続きです。ここで言う権利とは、主に保険料の支払い義務と引き換えに、将来年金や一時金を受け取る権利のことです。この変更は、契約者の意思によって生前に行う場合と、契約者の死亡によって自動的に発生する場合に分けられます。どちらのケースに当たるかで、適用される税金の種類が「贈与税」か「相続税」かに分かれ、その後の資産計画に大きな影響を与えます。

契約者変更の本質は「経済的価値の移転」です。誰が保険料を負担し、誰がお金を受け取る権利を持つのか、その名義を変える行為に伴う税務上の扱いを正しく知ることが大切です。

契約者・被保険者・受取人の役割と名義変更の意味

個人年金保険には、主に3つの重要な名義があります。

  • 契約者:保険会社と契約を結び、保険料を支払う人。契約上の権利と義務の主体です。
  • 被保険者:年金支給の開始や、保険金支払いの対象となる人。通常、年金を受け取る本人です。
  • 年金受取人:契約に基づいて、年金や一時金を受け取る権利を持つ人。

契約者変更とは、このうち最も重要な「契約者」の名義を書き換えることを指します。これにより、保険料の支払い義務と、将来の受取権利がまるごと新しい契約者に移ります。被保険者や受取人を変更するだけでは、この根本的な権利義務の移転は発生しません。

では、この契約者変更がどのような場面で行われるのでしょうか。大きく分けて二つの経路があります。

一つは、親が生きているうちに、子などに契約者名義を譲り渡すケースです。例えば、親が自分名義の個人年金保険の契約者を子に変更した場合、子はその時点で将来の年金受取権という財産的な価値を無償で譲り受けたことになります。このように、契約者が生存中に行う名義変更は、民法上の「贈与」とみなされます。贈与には贈与税が課税される可能性があり、その評価額は契約変更時の保険の解約返戻金相当額などによって計算されます。

もう一つは、契約者が亡くなったことにより、契約上の権利が相続人に引き継がれるケースです。個人年金保険の契約者が死亡すると、その契約は相続財産の一部となります。相続人がその権利を引き継いで新たな契約者となる場合、これは「相続」を原因とする契約者変更です。この場合、保険契約の評価額は相続税の課税対象となり、他の相続財産と合算して税額が計算されます。

契約者変更が贈与になるケースと相続になるケースの違い

この二つのケースを整理すると、以下の表のようになります。税金の種類だけでなく、手続きの主体やタイミングも異なります。

比較項目贈与による契約者変更
(生前変更)
相続による契約者変更
(死亡を原因とする変更)
発生原因契約者の生存中の意思契約者の死亡
権利移転の時期契約変更手続きが完了した時契約者が死亡した時(相続開始時)
適用される税金贈与税相続税
課税対象の評価額変更時の解約返戻金相当額など死亡時の解約返戻金相当額など
手続きの主体元契約者と新しい契約者相続人
主な目的生前の資産移転、相続税対策遺産の承継

どちらの方法を選ぶかは、ご家族の状況や資産構成、将来の相続税負担を見据えた総合的な判断が必要です。贈与による変更は計画的に資産を移転できますが、贈与税の基礎控除額を超えると課税が発生します。一方、相続による変更は計画的ではありませんが、相続税の基礎控除額は贈与税に比べて大きく、他の相続財産と合わせての節税効果を図れる場合があります。

契約者変更の手続き自体は保険会社に対して行いますが、税務申告は別途、所定の期限内に税務署に対して行う必要があります。手続きを忘れると無申告加算税などのペナルティが課される可能性があるため注意しましょう。

親から子へ資産を移す 贈与による契約者変更の税務とポイント

贈与税は 解約返戻金で 計算される。みなし贈与財産と評価、110万円の基礎控除、計画的な資産移転の検討、変更後の保険料負担者

生前に個人年金保険の契約者を子へ変更する場合、それは税法上「贈与」とみなされます。この贈与には税金がかかる可能性があり、その仕組みを理解せずに手続きを進めると、想定外の税負担を生むこともあります。ここでは、贈与税の基本的な仕組みと、特に重要な「みなし贈与財産」の考え方について解説します。

贈与税の課税対象となる「みなし贈与財産」の価額

個人年金保険の契約者を無償で子に変更した場合、その時点での保険契約の価値が贈与されたとみなされます。この価値は、一般的に「解約返戻金相当額」で評価されます。つまり、契約者変更の手続きを行った時点でその保険を解約したら戻ってくるお金の額が、贈与税の計算の基になる価額(課税価格)となるのです。これは、預金や不動産を直接贈与するのと同じ経済的な効果があると判断されるためです。

注意すべきは、将来受け取る予定の年金額や、これまで払い込んだ保険料の総額ではなく、あくまで変更時点での解約返戻金相当額が基準となる点です。契約者変更の前に、保険会社から現在の解約返戻金額を確認しておくことが賢明です。

知っておきたいこと

契約者変更は、名義を書き換えるだけでは不十分です。変更後、誰が以後の保険料を負担するかも明確にしておきましょう。親が引き続き負担する場合は、贈与が継続しているとみなされる可能性があります。資産承継の意図を正確に反映させるため、負担者も新契約者(子)に移すことが原則です。

暦年贈与の基礎控除110万円と、贈与税の計算方法

贈与税には、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与財産の合計額から110万円の基礎控除を差し引ける「暦年課税」制度があります。つまり、1年間の贈与額が110万円以下であれば、贈与税は原則かかりません。

この制度を活用した計画的な資産移転が可能です。例えば、解約返戻金が300万円の保険契約を一度に子へ贈与すると、贈与税が発生します。しかし、契約を分割して贈与する方法を検討することで、税負担を軽減できる場合があります。ただし、これはあくまで税制上の一つの考え方であり、実際の適用には細かい要件があります。

贈与税額の計算シミュレーション(暦年課税の場合)

解約返戻金相当額が300万円を、1年間で子へ贈与した場合の税額をシミュレーションしてみましょう。贈与税は、基礎控除後の金額に速算表を適用して計算します。

計算項目金額
贈与額(課税価格)3,000,000円
基礎控除額– 1,100,000円
課税遺産総額1,900,000円

課税遺産総額190万円は、速算表では「200万円以下」の区分に該当します。この場合の税額は、

  1. 1,900,000円 × 10% = 190,000円
  2. 上記から控除額 0円を差し引く
  3. 算出される贈与税額は190,000円

となります。このように、一度に多額の資産を移すと相応の税負担が生じます。基礎控除の範囲内に収める計画や、税率が低い範囲で資産を分けて移すことが、税負担軽減の基本的な考え方です。

離婚時の財産分与としての変更 贈与税が非課税となる条件

個人年金保険の契約者変更が、離婚に伴う財産分与の一環として行われる場合、贈与税が非課税となる可能性があります。税法上、夫婦間で財産を分与することは、贈与とは区別されるからです。

ただし、無条件で非課税となるわけではありません。主な条件は以下の通りです。

  • 離婚が法的に成立していること。
  • 分与される財産(保険契約の価値)が、婚姻期間中の夫婦の協力によって形成された共有財産を清算するためのものであること。
  • 分与の額が、慰謝料や養育費など他の金銭的要素と合わせて、社会通念上妥当な範囲内であること。
  • 分与が離婚後できるだけ早期に行われること。

重要なのは、財産分与として認められるのは「共有財産の清算」の部分までという点です。例えば、離婚の原因となった行為に対する慰謝料として過大な財産を移転した場合、その超過分は贈与とみなされ課税対象となる可能性があります。

注意点

離婚時の財産分与として契約者変更を行う場合、それが単なる資産の隠しや恣意的な配分ではなく、正当な清算であることを証明できる書面(離婚協議書など)を整備しておくことが強く望まれます。税務調査が入った際の説明材料として重要です。

贈与による契約者変更は、生前の資産移転を可能にする有効な手段です。しかし、税務上の取り扱いを正しく理解し、解約返戻金の額や年間110万円の基礎控除といった制度を踏まえた計画を立てることが、無用な税負担を避け、円滑な資産承継を実現する鍵となります。

相続税対策の一環として考える 相続による契約者変更の留意点

生前の贈与ではなく、契約者が亡くなったことによって個人年金保険の契約者権利が移転する場合、それは「相続」の扱いとなります。これは契約者の意思ではなく、法律に基づいて自動的に発生する権利の承継です。相続税対策の文脈で個人年金保険を考える際には、この相続発生時の課税ルールを正確に理解しておくことが、想定外の税負担を避ける鍵となります。

契約者の死亡に伴う相続手続きと、受取人への影響

契約者が死亡した場合、その契約上の権利は、他の預貯金や不動産と同様に「相続財産」となります。相続人は、この権利を相続するか放棄するかを選択し、相続する場合は保険会社に相続手続きを行う必要があります。手続き後、新たな契約者(相続人)がそのまま保険料の支払いを継続し、将来の年金受取人となります。

ここで注意すべきは、被保険者と年金受取人が誰であるかは原則として変更されない点です。例えば、父(契約者・被保険者)が亡くなり、子が契約者権利を相続した場合、被保険者である父は既に亡くなっているため、年金は支払われません。多くの場合、契約は解約され、その時点での解約返戻金相当額が相続財産として評価されます

個人年金保険の契約者変更を相続で行う場合、被保険者が生存しているかどうかでその後の扱いが大きく変わります。被保険者が既に亡くなっている契約を相続しても、年金を受け取ることはできません。

契約者死亡から権利承継までの流れ
  • 契約者(例:父)が死亡する。
  • 個人年金保険の契約者権利が相続財産となる。
  • 相続人(例:子)が、相続放棄または限定承認をせずに権利を承継することを選択。
  • 保険会社に対して、死亡診断書や相続関係を証明する書類を提出し、契約者名義変更(相続)の手続きを行う。
  • 手続き完了後、新契約者(子)が以後の保険料支払い義務を引き継ぐ(継続する場合)。
  • 被保険者(父)が生存していれば、当初契約通り、被保険者が年金を受け取る権利は変わらない。
  • 被保険者が既に死亡している場合は、契約は解約され、解約返戻金が精算される。

相続税の課税対象となる「みなし相続財産」の評価

個人年金保険の契約者権利は、相続税法上「みなし相続財産」に該当します。これは、被相続人(亡くなった契約者)が保険料を負担してきた経済的価値が、その死亡をきっかけとして相続人に移転するとみなされるためです。この権利に相続税が課税されることになります。

では、その価値はいくらと評価されるのでしょうか。評価の基準は主に以下の2つです。

  • 解約返戻金相当額:契約を相続時点で解約した場合に戻ってくるお金の額面です。多くの場合、これが課税評価額となります。
  • 精算金:被保険者が既に亡くなっており、契約が自動的に終了している場合に支払われる一時金の額です。

いずれの場合も、相続開始時(契約者が亡くなった時点)の価額が基準となります。将来受け取れるはずだった年金の総額ではなく、その時点でのキャッシュバリュー(現金化可能な価値)が課税の対象となる点が重要なポイントです。

相続税の基礎控除と、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人数)

相続税には、全ての相続財産の合計額から差し引ける「基礎控除」があります。基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算され、この金額を超えなければ相続税はかかりません。個人年金保険の権利価値も、他の預貯金や不動産の価値と合算した上で、この基礎控除額と比較します。

ここでよくある誤解が、「生命保険金の非課税枠」の適用です。死亡保険金を受け取った場合、「500万円 × 法定相続人の数」の額まで非課税となる特例があります。しかし、この特例は契約者と被保険者が同一人物で、かつ死亡保険金の受取人が相続人である場合に限られます

個人年金保険の契約者権利の相続は、死亡保険金の受け取りとは性質が異なります。被保険者が生存している場合は将来の年金受給権、被保険者が死亡している場合は解約返戻金という「財産の権利」を承継するものであり、死亡を直接の原因とする一時金の受け取りではありません。したがって、原則としてこの「500万円×法定相続人数」の非課税枠は適用されないと考える必要があります。

重要な注意点:「みなし相続財産」と「生命保険金の非課税枠」

この2つの制度は混同されがちですが、適用対象と税務上の扱いが全く異なります。

  • 個人年金保険の権利価値(みなし相続財産):契約者が死亡した時点の解約返戻金相当額が相続財産に加算され、生命保険金の非課税枠は原則適用されません。相続税の基礎控除の対象にはなります。
  • 死亡保険金:契約者=被保険者で、受取人が相続人の場合に限り、「500万円×法定相続人の数」の額が相続税の課税対象から控除(非課税)されます。これは相続財産の評価額そのものを減らす効果のある特例です。

資産承継を計画する際は、個人年金保険がどちらの扱いになるのか、あらかじめ確認しておくことが不可欠です。

相続による契約者変更を検討する際は、単なる名義変更ではなく、相続税評価が発生するという点を常に念頭に置きましょう。被保険者の生存状況や契約の解約返戻金額を把握した上で、他の相続財産と総合的に判断し、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

契約者変更の具体的な手続き ステップと必要書類を確認する

原因別の 必要書類を 準備する。保険会社に事前確認、共通書類を揃える、贈与なら贈与契約書、相続なら戸籍謄本等

贈与または相続により契約者変更の必要性が生じた場合、次のステップは保険会社への正式な申請です。ここでは、手続きの流れと、事前に準備すべき書類について具体的に解説します。手続きは一般的に郵送で完結しますが、期限や添付書類に不備があると再提出となり、時間がかかる可能性があります。スムーズに資産を承継するために、以下の手順を確認しましょう。

保険会社への事前確認と、変更に必要な共通書類

まず、実際に変更手続きに入る前に、契約している保険会社のカスタマーサービスへ連絡し、以下の点を確認することが推奨されます。会社によっては、契約内容によっては変更ができない場合や、特別な条件が付くこともあります。

  • 当該契約における契約者変更の可否
  • 変更手続きに必要な書類の最新リスト
  • 書類の提出方法(郵送先住所等)
  • 手続き完了までの標準的な所要期間

確認後、手続きを進めるにあたって、贈与・相続どちらの場合にも共通して必要となる基本書類を準備します。

共通の必要書類
  • 保険証券(原本)
  • 契約内容変更申出書(保険会社指定の所定用紙)
  • 新旧契約者の身分証明書の写し(運転免許証、パスポート、マイナンバーカード等)
  • 新契約者の口座情報(保険料の引き落とし用)

贈与の場合と相続の場合で異なる添付書類

契約者変更の原因が「贈与」か「相続」かによって、追加で準備する書類が大きく異なります。税務上の手続きを正しく証明するための書類となるため、確実に用意しましょう。

変更の種類主な追加必要書類目的と備考
贈与による変更贈与契約書(贈与者と受贈者の双方が署名・押印したもの)贈与の意思と契約内容を証明します。日付や財産の評価額を明記します。
相続による変更・被相続人の死亡診断書の写し
・相続人全員の戸籍謄本
・相続関係説明図
・遺産分割協議書(相続人が複数いる場合)
被相続人の死亡と、申請者が正当な権利を承継したことを証明します。

贈与契約書は、金銭的価値のある権利が移転する重要な証拠となります。口頭での約束だけでは後日のトラブルになる可能性があるため、必ず書面を作成し、双方で保管しておくことが望ましいでしょう。

STEP
保険会社への事前確認

カスタマーサービスに連絡し、変更の可否と必要書類リストを確認・入手します。

STEP
共通書類の準備

保険証券、契約内容変更申出書、新旧契約者の身分証明書写し、新契約者の口座情報を揃えます。

STEP
原因別の添付書類作成・収集

贈与の場合は「贈与契約書」を、相続の場合は「戸籍謄本」や「相続関係説明図」などを作成・収集します。

STEP
書類の提出

必要書類をすべて保険会社の指定する方法(通常は郵送)で提出します。書類に不備がないか最終確認をします。

STEP
完了通知の確認と保管

保険会社から新しい契約者名義での証書や通知書が届いたら、内容を確認し、大切に保管します。

手続き完了後の確認事項と、名義変更証明の管理

保険会社で手続きが受理され、審査が完了すると、新しい契約者宛てに書類が送付されてきます。ここで重要なのは、単に受け取るだけでなく、内容を必ず確認することです。

  • 新しい契約者名義の保険証券(または証書)
  • 契約者変更が完了した旨の通知書
  • 今後の保険料の引き落としに関する案内

これらの書類は、名義変更が正式に完了したことの証明であり、将来的に税務申告が必要な場合や、さらに次の世代への承継を考える際の基礎資料となります。贈与契約書や相続関係書類と合わせて、金融資産に関する重要な書類として一括して管理することをおすすめします。

手続き後しばらくしてから、新しい契約者名義で保険料の引き落としが開始されているか、オンラインサービスにログインできるかなども確認し、変更が全てのシステムに反映されているかをチェックすると安心です。

契約者変更を検討する前に 確認すべき4つの重要ポイント

4つのポイントで 変更後の影響を 確認する。税金の納税義務者が変わる、特約が引き継げない可能性、新契約者に年齢制限も、税務申告が必要な場合も

贈与や相続による個人年金保険の契約者変更は、手続き自体は比較的シンプルです。しかし、変更後の影響を事前に理解せずに進めると、将来の年金受取額が想定外に減ったり、予期せぬ税金が発生したりする可能性があります。変更を決断する前に、以下4つのポイントを必ず確認し、賢い資産承継の判断材料にしましょう。

変更前に確認したい4つのポイント
  • 変更による将来の年金受取額と税制への影響
  • 契約の保障内容や特約が変更・消滅する可能性
  • 新しい契約者の年齢や健康状態による制限
  • 税務申告の必要性と専門家への相談タイミング

ポイント1:変更による将来の年金受取額と税制への影響

契約者を変更すると、年金を受け取る権利を持つ「被保険者」が変わらない場合でも、税金の取り扱いが大きく変わります。最も重要なのは、将来受け取る年金に対する所得税と住民税の納税義務者が、新しい契約者に移ることです。

元の契約者が受取人になる予定だった場合、変更後は新しい契約者が年金を受け取り、その分の税金を支払う必要が生じます。家族間での贈与であれば、受取人の生活資金としての意味合いは変わらないかもしれませんが、税務上の負担者は明確に変わる点に注意が必要です。

ポイント2:契約の保障内容や特約が変更・消滅する可能性

契約者変更の手続きでは、元の契約に付加されていた特約が引き継げなくなるケースがあります。例えば、介護状態になった際に保障が受けられる「介護保障特約」や、所定の高度障害状態になったときに保険料の払込が免除される「保険料払込免除特約」などが該当します。

これらの特約は、当初の契約者や被保険者の属性に基づいて設定されているため、契約者の権利が第三者に移ると、特約の条件を満たせなくなる可能性が高いのです。変更前に保険会社に確認し、どの保障が維持され、どの保障が失われるのかを明確に把握しておきましょう。

ポイント3:新しい契約者の年齢や健康状態による制限

個人年金保険の契約者変更には、新しい契約者に対して年齢制限が設けられている場合があります。また、一部の商品では、新しい契約者が健康告知を求められるケースもあります。これは、契約者が保険料を支払い続ける能力を保険会社が審査するためです。

例えば、新しい契約者の年齢が高すぎると変更が認められなかったり、特定の疾病がある場合に変更を断られたりする可能性があります。希望通りに変更できない事態を避けるためにも、事前の確認は欠かせません。

ポイント4:税務申告の必要性と専門家への相談タイミング

契約者変更が贈与に該当する場合、その時点での解約返戻金相当額が贈与税の課税対象となります。基礎控除額を超える価額であれば、贈与税の申告と納税が必要です。相続による変更でも、相続財産の一部として相続税の計算対象になります。

税額の計算は複雑で、他の資産との関係も考慮する必要があります。変更を検討した時点で、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。手続き後に想定外の税負担が発生するのを防ぎ、最も有利な方法を選択するための助言を得られるでしょう。

契約者を孫に変更することはできますか?

原則的には可能です。ただし、孫が未成年の場合は親権者などの法定代理人が手続きを行う必要があります。また、新しい契約者である孫の年齢や、保険会社の規定によっては変更が認められない場合もあります。贈与税の基礎控除を超える価額があれば、申告が必要になる点も確認しておきましょう。

契約者変更には手数料がかかりますか?

多くの場合、契約者変更そのものに対する手数料は発生しません。しかし、変更の際に契約内容を見直して特約を追加したり、保険料の払込方法を変更したりすると、それに伴う費用がかかる可能性があります。手続きを始める前に、保険会社の約款や、担当者への確認で費用の有無を確かめておくと安心です。

ケース別で考える 賢い契約者変更の選択肢と代替案

契約者変更は贈与や相続の方法を変えるだけでなく、目的に応じて他の選択肢と比較することで、より良い資産承継が可能になります。ここでは、代表的な3つのライフイベントを想定し、個人年金保険の取り扱い方をシナリオ別に解説します。契約者変更だけが唯一の答えではないことを理解し、最適な選択を考える材料にしてください。

ケーススタディA:生前贈与で少しずつ資産移転をしたい

シナリオ

親(65歳)は、子に将来の資産を少しずつ渡したいと考えています。個人年金保険の解約返戻金は現在500万円。一度に贈与すると贈与税がかかる可能性があります。

この場合、契約者を親から子へ一括で変更すると、贈与税の課税対象額が大きくなりすぎるリスクがあります。賢い選択肢は、暦年贈与の基礎控除(年間110万円)の範囲内で分割して契約者変更を行うことです。

  • 契約者を子に変更する権利の一部を、毎年110万円相当分ずつ贈与する。
  • 数年間かけて段階的に権利を移転することで、贈与税を非課税で完了できる。
  • 保険会社によっては「一部贈与」の手続きに対応していない場合があるため、事前の確認が必須です。

ケーススタディB:相続税負担を軽減するための生前対策

シナリオ

被相続人(70歳)は、相続税の納税資金を現金で準備できず、個人年金保険も含めた資産の評価額が相続税の基礎控除額を超えそうです。相続人の一人である子に、何らかの形で資産を引き継ぎたいと考えています。

このケースでは、単に契約者を子に変更するだけでなく、契約を解約して現金化し、他の対策と組み合わせる選択肢も比較検討する価値があります。

選択肢メリットデメリット・注意点
契約者を変更する保険契約としての機能(年金受取等)を維持できる。解約手数料が発生しない。変更時の権利評価額が贈与税・相続税の対象になる。将来の年金受取額は元契約者のまま。
解約して現金で分ける解約返戻金を他の相続対策(生命保険の加入、現金贈与など)に柔軟に活用できる。解約手数料がかかる可能性がある。将来の年金受給権を失う。解約益があれば一時所得として課税される。

重要なのは、契約者変更が「資産の形を変えない生前贈与」である点です。一方、解約は「現金化して他の方法で承継する」という別の道を開きます。相続税対策として生命保険を活用する場合、解約した資金で新たに契約者を相続人とした生命保険に加入することで、相続税の計算上、一定額が非課税となる「みなし相続財産」のメリットを受けられる可能性があります。

ケーススタディC:離婚時に公平な財産分与を実現するには

シナリオ

ご夫婦が離婚をすることになりました。夫名義で加入している個人年金保険を、財産分与の対象としてどのように評価し、分ければ公平でしょうか。

離婚時の財産分与では、まず個人年金保険の「権利評価額」を算定する必要があります。これは一般的に、解約返戻金ではなく、その時点での契約の経済的価値を指します。保険会社に問い合わせて正確な評価額を確認しましょう。

  • 評価額を算定する:保険会社から「権利評価証明書」などを取り寄せ、財産としての価値を明確にします。
  • 総合的な分割案を作成する:評価額を、預貯金や不動産など他の共有財産の価値と合算します。その上で、保険の権利を夫が保持し、その代わりに妻が他の財産(現金など)を多く取得するなど、全体のバランスを見て公平な分割方法を考えます。
  • 契約者変更を選択肢に入れる:財産分与の一環として、契約者を妻に変更する(贈与とする)方法もあります。この場合も権利評価額に基づく贈与税の計算が必要になる点に注意が必要です。

個人年金保険だけを切り離して考えるのではなく、すべての財産を俯瞰し、最も納得感のある形で清算することが、離婚時の公正な財産分与につながります。

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著者

株式会社イード コンテンツマーケティング事業部 部長。

広島大学卒業後に慶應義塾大学の大学院に進学。大学院では『ダイレクト・レスポンス・マーケティングにおけるユーザ行動分析に関する研究』を修士論文としてマーケティングの研究に取り組む。

LiPro(婚活)メディアを始め、めしレポSpicomiCareer Theoryなど多数サービスの責任者を務める。
特定非営利活動法人 広島経済活性化推進倶楽部の理事に従事。

著書「婚活メンパ革命〜自分を削る婚活は卒業!消耗しない人が勝つ「婚活フィルタリング戦略」〜」を発売。

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