有形固定資産の取得・建設などによって生じるのが資産除去債務です。法人経営を行う際などには、知識を求められることもあるかもしれません。この記事では、資産除去債務とは何かについて解説します。
目次
「資産除去債務」の定義や仕訳って?
「資産除去債務」の定義
「資産除去債務」とは有形固定資産の取得・建設などの際に生じ、取得した有形固定資産の除去について法令または法律上の義務等に準ずるものをいいます。有形固定資産の除去とは、有形固定資産を用役の提供から外すことを指します。方法として売却や廃棄、リサイクルなどが挙げられますが、転用・用途変更は含まれません。
帳簿上は「負債」として計上
資産除去債務は会計処理の際、帳簿上では「負債」として計上されます。債務金額の合理的な見積もりができない場合には有形固定資産が発生してもすぐに負債として計上せず、合理的な金額見積もりが可能となった時点で計上します。
「債務金額の合理的な見積もりができない時」とは、決算日までに入手可能な証拠を揃え、最善の見積もりを行っても金額の算定が難しい場合などを指しています。
「資産除去債務」の仕訳方法
資産除去債務は有形固定資産を使用した時点で発生するものとみなされ、借方は有形固定資産・貸方は資産除去債務となります。「購入と同時に減価償却後の除去債務も済ませてしまうこと」と考えることもでき、資産と負債が同時に発生する特殊な仕訳方法といえます。
除去費用と見積額の差分が「履行差額」
「履行差額」とは、資産除去債務の残高と実際の除去費用との差額のことで、除去債務を履行した時点で計上します。帳簿上は「営業損益」として会計処理をすることになっており、原則として営業費用のマイナスとなります。しかし、異常な原因によって差額が発生した場合等については「特別利益」として処理されるケースもあります。
資産除去債務と敷金の関係性は?
「有形固定資産の除去」とは
有形固定資産の除去とは、売却や廃棄・リサイクルなどによって有形固定資産を用役の提供から除外することを指します。「資産除去債務」と同じような意味合いです。借りているものを元に戻す必要のある原状回復義務が発生する有形固定資産に対して使用する勘定科目です。
敷金も「資産除去債務」の一つ
賃借契約のある建物等では、多くの場合「原状回復を行うこと」が契約の中に盛り込まれています。賃借契約で敷金が資産計上されている場合、最終的に回収ができないと予測される敷金の金額をあらかじめ見積もり、当期の負担に属する金額を費用へ計上することができます(「資産・負債両建て方式」)。敷金が原状回復費用へ充てられることが想定される場合などに用いることができる方法です。
資産除去債務仕訳の具体例
固定資産を購入した場合
以下の通り固定資産を購入した場合の仕訳例を説明します。
【機械を2,000万円で購入し、代金は普通預金から支払い。使用期間は3年・除去の見積額は100万円で割引率5%】
(借方)機械 2,086万 (貸方)普通預金 2,000万円・資産除去債務 86万円
3年で資産除去債務(100万円)を支払うため、資産除去債務の算出は100万円÷(1.05)3乗=86万円となります。借方の機械の金額は、代金と資産除去債務の両方を合わせた金額です。
減価償却費の計上
上記で購入した機械について、決算1年目の仕訳は以下の通りとなります。
(借方)減価償却費 695万円 (貸方)減価償却累計額 695万円
…機械2,086万円は使用期間が3年なので÷3年で減価償却を行います。
(借方)利息費用 4万円 (貸方)資産除去債務 4万円
…86万円×割引率5%(2年目以降の利息費用は86万円に計上済の費用を足す)
利息費用算出において、最終的に見積もりと実際の費用の間に差額が発生した場合には「履行差額」の勘定科目を使用します。
資産除去債務の適用指針とは?
従来は除去費用を一時点で計上
日本基準では、もともと有形固定資産を取得した時点で資産除去債務が発生するものとされていました。そのため、従来の会計処理では、使用期間にかかわらず一時点で除去費用の計上が行われていました。
法令の改正などによって生じた費用については、改正された法令の「公布日」を発生時点とする場合もあります。公布日とは、一般的に法令の効力が広く周知された日を指します。
国際会計基準に合わせて導入
国際財務報告基準では、各期の会計ごとに計上される処理が規定されています。日本でも法令の改定によって、国際財務報告基準・除去費用の処理方法などの導入を行いました。これは、処理方法によっては有形固定資産の除去に必要な金額が計上されないという問題が起こる可能性があるためです。国際的な基準を考慮しながら「資産・負債の両建て方式」を採用する方針としています。
保険は資産除去債務の対象?
保険は資産除去債務とは無関係
資産除去債務の対象となるものは「有形固定資産」であり、「有形固定資産の取得・建設・開発・通常の使用によって生じ、有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」と定められています。具体的には、建物の解体費用や修繕費用、土壌汚染浄化費用などが挙げられます。保険は有形固定資産に含まれないため、資産除去債務の対象外となります。
まとめ
資産除去債務の費用計上は法令の改正などによって変更される場合もあるため、最新の情報を確認するようにしましょう。やや複雑な仕訳方法と言えるかもしれませんが、有形固定資産を取得している場合、無関係ではない可能性もあります。自分ひとりで把握が難しい場合、専門知識を持った人などに相談してみるのもよいでしょう。
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