法人保険を「節税」の手段として説明する情報の多くは、すでに使えなくなった制度を前提にしています。国税庁は2019年と2021年の2度にわたって取扱いを改め、かつての節税スキームはほぼ封じられました。
- 2019年7月8日:「全額損金/1/2損金/1/3損金」という商品タイプ別の分類が廃止され、最高解約返戻率で判定する方式に変わりました
- 2021年7月1日:低解約返戻金型保険を個人に名義変更する「名義変更プラン」が封じられました
このページでは国税庁の公表資料にもとづき、現在何ができて何ができないかを整理します。
法人保険とは
法人を契約者、経営者や従業員を被保険者とする生命保険です。主な目的は4つあります。
- 事業保障:経営者に万一があったときの借入返済・運転資金
- 退職金の準備:役員退職慰労金の原資
- 従業員の福利厚生:弔慰金・死亡退職金
- (かつては)課税の繰り延べ
4つ目について、正確に理解しておくべきことがあります。保険料を損金に算入しても、解約返戻金を受け取れば益金になります。税金がなくなるわけではなく、支払う時期が後ろにずれるだけです。「節税」という言葉は、正確には「課税の繰り延べ」を指しています。
2019年の改正|損金算入の判定方法が変わった
かつては商品タイプごとに損金算入割合が決まっていました。この分類は、令和元年7月8日以後の契約には適用されません。
| かつての分類 | 現在 |
|---|---|
| 全額損金定期保険 | 商品名ではなく 「最高解約返戻率」で判定 |
| 逓増定期保険(1/2損金タイプ) | |
| 逓増定期保険(1/3損金タイプ) | |
| 長期平準定期保険 |
現在は法人税基本通達9-3-5の2により、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険で最高解約返戻率が50%を超えるものは、次のとおり資産計上が必要です。
| 最高解約返戻率 | 資産計上割合 | 資産計上期間 |
|---|---|---|
| 50%以下 | なし(全額損金) | — |
| 50%超 70%以下 | 40% | 保険期間の当初40%相当期間 |
| 70%超 85%以下 | 60% | 保険期間の当初40%相当期間 |
| 85%超 | 当初10年は90%、以後70% | 最高解約返戻率となる期間の終了まで(最低5年) |
全額損金にできるのは次のどちらかです。
- 最高解約返戻率が50%以下の契約
- 最高解約返戻率70%以下 かつ 年換算保険料相当額が1被保険者につき合計30万円以下
返戻率を高くすれば損金性が下がり、損金性を取れば返戻金が少なくなる。この改正で「両取り」ができなくなりました。現在「全額損金」を掲げる商品の多くが無解約返戻金型・低解約返戻金型なのは、返戻率を50%以下に抑えているためです。実例はエヌエヌ生命の法人保険|現行商品と2019年改正後の損金算入ルールで確認できます。
法人と個人、両方の保障を整理したい方へ|FPの無料相談2021年の改正|「名義変更プラン」は封じられた
2019年の改正後に広まったのが「名義変更プラン」です。仕組みはこうでした。
- 法人が低解約返戻金型の保険に加入し、保険料を払う
- 解約返戻金が意図的に低く設定されている期間に、契約を役員個人へ名義変更する
- そのときの評価額は解約返戻金の額なので、個人は安く受け取れる
- 名義変更の後に返戻率が跳ね上がり、個人が大きな返戻金を受け取る
国税庁は令和3年(2021年)6月に所得税基本通達36-37を改正し、これを封じました。
改正後は、保険契約に関する権利を支給した場合、原則は支給時の解約返戻金の額で評価しますが、解約返戻金の額が支給時資産計上額の70%未満である場合は、資産計上額で評価することになりました(令和3年7月1日以後の名義変更等が対象)。
つまり「低い解約返戻金で安く移す」という前提が成り立たなくなりました。このスキームを解説している情報は、改正前のものです。現在このやり方を提案されたら、必ず顧問税理士に確認してください。
(出典:国税庁 所得税基本通達 給与等とされる経済的利益の評価)
養老保険の福利厚生プランはどうなったか
2019年の改正は「定期保険および第三分野保険」が対象です。養老保険は含まれていません。
養老保険で、死亡保険金の受取人を遺族、満期保険金の受取人を法人とするいわゆるハーフタックスプラン(福利厚生プラン)は、従来どおり保険料の2分の1を損金算入する扱いが続いています。
ただし要件が厳格です。特定の役員だけを対象にするなど普遍的加入の要件を満たさない場合は、給与として扱われます。「全従業員を対象にする」という前提を崩すと成立しません。
それでも法人保険に入る理由
税務メリットが縮小した今、法人保険を検討する理由は「保障」に戻りました。
| 目的 | 考え方 |
|---|---|
| 事業保障 | 経営者に万一があったとき、借入金の返済と当面の運転資金を賄えるか。中小企業では経営者個人の信用で借りているケースが多く、保障がないと事業が止まる |
| 役員退職金の準備 | 解約返戻金を退職金の原資にする。退職金という損金が立つ年度に解約すれば、益金と相殺できる |
| 事業承継 | 自社株の評価額に対する納税資金、後継者以外の相続人への代償金 |
| 福利厚生 | 従業員の弔慰金・死亡退職金の財源。採用と定着の材料にもなる |
2つ目の「出口の設計」が実務上いちばん重要です。解約返戻金は益金になります。対応する損金がない年度に解約すると、そのまま課税されます。いつ解約し、その年度に何の損金を立てるのかまで決めてから加入するのが原則です。
経営者個人の保障も見直したい方へ|FPの無料相談検討時に確認すべき5つのこと
- 最高解約返戻率は何%か。設計書に記載されています。これで損金算入の扱いが決まります
- 年度ごとの資産計上額と取崩額。「いつ、いくらが費用になるか」を表で出してもらってください
- 解約予定年度に、対応する損金があるか。役員退職金の支給時期と合っているか
- 保険料を払い続けられるか。業績が悪化した年も払える金額か
- 顧問税理士の確認を取ったか。税務の最終判断は税理士の領域です
5つ目は省略しないでください。保険募集人は税務の専門家ではありません。「税理士に確認してください」と言わない提案は、それ自体が注意信号です。
よくある質問
2019年より前に契約した保険はどうなりますか?
改正の対象は令和元年7月8日以後の契約です。それ以前の契約は、契約時のルールが継続されます。ただし契約内容を変更した場合の扱いは個別に異なるため、税理士にご確認ください。
「決算直前でも節税できる」と言われました
慎重に判断してください。年払保険料を期末に払って損金を作る手法は以前からありますが、2019年の改正で損金算入できる割合が下がっているため、効果は以前より小さくなっています。また支払った現金は戻りません。当期の税負担だけを見て、翌期以降の資金繰りを損なわないようにしてください。
名義変更プランはもう使えないのですか?
従来想定されていた効果は得られません。2021年の改正で、解約返戻金が資産計上額の70%未満の場合は資産計上額で評価されることになったためです。改正前の解説記事を根拠にした提案には注意してください。
結局、法人保険は入る意味がないのですか?
そんなことはありません。変わったのは「税務メリット」であって、経営者に万一があったときに事業を止めないという役割は変わっていません。むしろ節税目的の需要が減った分、本来の保障として妥当かどうかで判断しやすくなったとも言えます。
まとめ
- 「全額損金/1/2損金/1/3損金」という分類は、2019年7月8日以後の契約には使われません。現在は最高解約返戻率で判定します
- 全額損金にできるのは返戻率50%以下、または70%以下かつ年換算保険料30万円以下の場合
- 名義変更プランは2021年7月に封じられました。解約返戻金が資産計上額の70%未満なら資産計上額で評価されます
- 養老保険の福利厚生プラン(1/2損金)は改正の対象外ですが、普遍的加入の要件を満たす必要があります
- 損金算入は「課税の繰り延べ」であって、税金が消えるわけではありません。出口の設計まで含めて検討してください
本記事は国税庁の公表資料にもとづき、2026年9月時点で作成しました。税務の取扱いは契約内容・契約時期・個別の事情により異なり、今後も改正される可能性があります。本記事は一般的な情報提供であり、税務上の助言ではありません。実際の判断にあたっては必ず顧問税理士にご相談ください。特定の商品の購入を推奨するものでもありません。

