公的年金加入者に万が一のことがあり亡くなった場合に、条件を満たすことで遺族が受給できる年金が遺族年金です。遺族年金にはいくつかの種類があり、種類によって給付金額や給付対象が変わります。遺族年金の制度について解説します。
目次
受け取れる遺族年金の種類
自営業者が対象になるもの
農業などの自営業者は国民年金制度に加入します。被保険者に万一のことがあった場合は被保険者やその家族の状況に応じて、遺族基礎年金や、寡婦年金、死亡一時金が支給されます。
それぞれの遺族年金の受給要件は異なりますが、いずれかの要件を満たせば受給の対象です。具体的な要件は後に記載します。
会社員や公務員が対象になるもの
会社員や公務員など厚生年金制度に加入している人は、要件を満たすことで遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給できます。遺族基礎年金と遺族厚生年金は、国民年金と厚生年金のような関係で、遺族厚生年金は遺族基礎年金に上乗せして払われるものです。遺族基礎年金と遺族厚生年金では受給可能な対象範囲に違いがあり、遺族厚生年金の方が若干広い範囲が設定されています。
「遺族基礎年金」をもらえる人と金額
「子」と「子のいる配偶者」が対象
遺族基礎年金は、亡くなった人の収入で生計を維持していた「子」もしくは「子のいる配偶者」に支給されます。「子」とは、18歳に到達した年度一杯の間にある子か、20歳に到達していない障害等級1級もしくは2級の障害を持っている子を指します。ただし、要件を満たしていても子が婚姻関係を結んでいる場合には支給されません。
遺族基礎年金の金額は一律
遺族基礎年金の金額は、779,300円+子の加算額と設定されており、収入の多い少ないで変化することはありません。子の加算額は、第2子までは一人当たり224,300円、第3子以降は一人当たり74,800円として計算します。例えば、子供を三人持つ配偶者が要件を満たしている場合の遺族基礎年金の支給額は以下の通りです。
779.300円+224,300円×2+74,800円
「寡婦年金」や「死亡一時金」とは
「寡婦年金」の受給資格と金額
農業などの自営業を営んでいた夫が死亡した際、夫が免除期間を含めて10年以上国民年金保険料を納めていた場合に妻に「寡婦年金」の受給権が発生します。ただし、10年間婚姻関係にあり妻が夫の収入で生計を立てていた場合に限ります。
受給期間は60歳から65歳までの間で、年金額は夫の老齢基礎年金の3/4となります。老齢基礎年金は自営業を営んでいた期間だけで計算します。
夫が障害基礎年金や老齢基礎年金を受給したことがある場合や、妻が繰り上げ制度を使って老齢基礎年金を受給している場合、寡婦年金は支給されません。
「死亡一時金」の受給資格と金額
自営業を営んでいた夫が36ヶ月以上保険料を納付しており、老齢基礎年金や障害基礎年金を受給せずに亡くなった場合、夫の収入で生計を立てていた遺族に受給権が発生します。死亡一時金の金額は、3年から15年未満の実績の場合は12万円、15年から20年未満の場合は14万5,000円など保険料を納付した期間で変化します。35年以上の場合は一律32万円です。
「遺族厚生年金」をもらえる人と金額
遺族厚生年金をもらえる人の順位
遺族厚生年金を受給できる人には順位が定められており、1位から順番に配偶者、子です。そして父母、孫、祖父母と続きます。
対象になる「子」とは、遺族基礎年金の対象になる「子」と同様に18歳に到達した年度一杯の間にある子か、20歳に到達していない障害等級1級か2級の障害を持っている子です。また、妻が30歳未満で子がいない場合は5年間の期限付きの給付になります。
遺族厚生年金は報酬比例部分の約3/4
遺族厚生年金は、厚生年金の受給額をベースに計算します。厚生年金の受給額は、基礎年金部分と報酬比例部分に分類されますが、計算に使用するのは報酬比例部分です。報酬比例部分の金額の算出方法は、短期要件と長期要件で異なります。
短期要件とは厚生年金保険の被保険者期間に亡くなった場合で、長期要件は老齢厚生年金の給付期間中に亡くなった場合です。使用する計算式は、長期要件短期要件ともに以下の通りです。
亡くなった人の平均標準報酬月額×給付乗率/1000×厚生年金加入月数×3/4
短期要件の場合でも、300月分程度の遺族厚生年金は受け取れるようになっています。
40歳以上の妻は中高齢加算の対象
中高齢加算とは、要件を満たした妻が遺族厚生年金を受給する場合に適用される制度です。制度の対象になった場合、40歳〜65歳の年金に年額584,500円が加算されます。要件を満たすためには、年齢と子の条件をクリアする必要があります。
まず、年齢条件は夫が死亡時に妻の年齢が40歳以上65歳未満であることです。子の条件は、18歳に到達した年度一杯の間にある子か、20歳に到達していない障害等級1級もしくは2級の障害を持っている子が妻にいないことです。ただし、遺族基礎年金の受給権を失った妻も中高齢加算の対象になります。
共働き世帯でもらえる遺族年金
共働きでも遺族厚生年金はもらえる
夫婦共働きの家庭であっても、年収の要件を満たしていれば遺族厚生年金を受給することが可能です。夫婦の一方が亡くなった場合には、遺された方に受給権が発生します。
年収の要件は、遺族厚生年金を受け取る対象者の年収が850万未満であることです。850万円未満であれば、亡くなった相手の収入で生計を維持していたと考えられるため、遺族厚生年金が支給されます。
母子家庭と父子家庭の違い
夫婦の一方が亡くなったことで母子家庭、または父子家庭になった場合は給付される遺族年金の金額は異なります。夫が亡くなって母子家庭になった場合は、遺族基礎年金、遺族厚生年金、中高齢加算の3つの年金を受け取ることができます。
妻が亡くなり父子家庭になった場合は、中高齢加算が適用されません。さらに、子供が高校を卒業したら遺族年金が受給できなくなります。
遺族年金の違いを考慮して保険に加入
夫婦の一方が亡くなり遺された相手が遺族年金を受給する場合、性別によって受給総額が変化します。男性の場合は妻が亡くなった際の遺族年金受給額は低い水準に留まるため、年金額が不十分だと感じる可能性もあります。生命保険に加入するなど、年金に頼らなくても老後の生活に困らないように備えておくと良いかもしれません。
まとめ
夫婦の一方が死亡した場合、要件を満たすことで遺された人に遺族年金の受給権が発生しますが、収入や家庭環境によって受給総額は変化します。自分が置かれている環境を事前にチェックして、必要に応じて保険の加入や見直しなどをすることを検討しましょう。