病気やけがで入院した時など、状況によっては保険証を使っても支払いの額が高額になることがあります。そんな時に使えるのが高額療養費制度です。年収や年齢によって計算方法があり世帯で合算もできるので、あらかじめ制度内容を知っておくことで万一の時の自己負担額を抑えることができます。高額療養費制度の具体的な内容を解説します。
目次
高額療養費制度ってなに?
医療費が払い戻しになる制度
高額療養費制度とは、1か月(1日~月末)の中でかかった医療費について、自己負担額が一定額を超えた場合に超過した金額が戻ってくる制度です。対象者は健康保険証を持っている人で、年齢帯と収入額によって計算方法は異なります。医療費で生活が困窮しないように設けられている制度です。
高額療養費貸付制度も利用可能
高額療養費支給の手続きは通常3か月程度かかり、場合によってはそれ以上かかることもあります。理由は、申請された書類と医療機関から出される診療報酬明細書を照らし合わせて確認するからです。
申請から受給できるまでの間、高額療養費貸付制度を利用することもできます。高額療養費貸付制度を利用すると、高額療養費貸付制度高額療養費支給額の概算の8割ぐらいを無利子で借りられます。
手続きは事前か事後かを選べる
高額療養費の申請の手続きは、事前か事後のどちらかを選べます。手続き時期の違いだけで、実際の支払額に違いはありません。
事前に手続きをすると限度額適用認定証が発行されるので、最初から実際の自己負担限度額だけを支払うことになります。事後に手続きをした場合、一旦保険証で自己負担分を支払い(例えば70歳未満の場合は3割負担)ます。その後、高額療養費支給申請後に所得区分に応じて自己負担限度額を超えた高額療養費が戻ってきます。
事前手続きは限定額適用認定証が必要
事前手続きをする際には、あらかじめ加入している健康保険組合や協会けんぽ、または国民健康保険などに「限度額適用認定証」の申請が必要です。実際の費用が自己負担額を超えるかどうかはっきりしなくても、申請は可能です。
外来・入院の際、限度額適用認定証を提示すれば、自己負担額を超えた時にも立て替えをする必要がありません。
自己負担限度額の計算方法
70歳未満の場合
平成27年1月以降に診療を受けた場合で計算します。標準報酬月額とは、1年間の給料を計算し国の定める基準で分けたものです。
標準報酬月額と報酬月額 | 計算式 | 高額の負担が4か月目以降の時 |
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標準報酬月額83万円以上・報酬月額81万以上 | 252,600円+(総医療費-84,200円)×1% | 140,100円 |
標準報酬月額53万~79万・報酬月額51万5千円以上~81万円未満 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
標準報酬月額28万~50万・報酬月額27万以上~51万円5千円未満 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
標準報酬月額26万以下・報酬月額27万未満 | 57,600円 | 44,400円 |
低所得者・被保険者が市区町村民税の非課税者等 | 35,400円 | 24,600円 |
70歳以上~75歳未満の場合
平成29年8月診療分から自己負担限度額が引き上げられています。
平成29年7月診療分まで | 外来(個人ごと) | 外来・入院(世帯) |
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現役並み所得者(標準報酬月額28万円以上で高齢受給者証の負担額が3割) | 44,400円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
一般所得者 | 12,000円 | 44,400円 |
低所得者 (被保険者が市区町村民税の非課税者等) | 8,000円 | 24,600円 |
低所得者 (保険者と扶養家族の合算収入から必要経費や控除額を引いた後の所得がない場合) | 8,000円 | 15,000円 |
平成29年8月診療分から | 外来(個人ごと) | 外来・入院(世帯) |
---|---|---|
現役並み所得者(標準報酬月額28万円以上で高齢受給者証の負担額が3割) | 57,600円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
一般所得者 | 14,000円 | 57,600円 |
低所得者 (被保険者が市区町村民税の非課税者等) | 8,000円 | 24,600円 |
低所得者 (被保険者と扶養家族の合算収入から必要経費や控除額を引いた後の所得がない場合) | 8,000円 | 15,000円 |
75歳以上の場合
75歳から後期高齢者医療制度が適用されます。しかし、75歳の誕生月は健康保険制度と後期高齢者医療制度の両方の自己負担限度額が適用されるため、特例として適用額は両制度の限度額の1/2になります。ただし、誕生日が1日の場合はこの限りではありません。
75歳になった被保険者の被扶養者も特例の対象者となります。
高額療養費のポイント
自己負担額は世帯合算可能
被保険者に同一世帯の扶養家族がいる場合は同じ健康保険の適用になるので、家族についても1か月の中でそれぞれの病院でかかった医療費を合算することができます。ただし家族が70歳未満の場合には、レセプト1枚の自己負担額が21,000円以上の場合に合算できます。
レセプトとは、診療報酬請求書のことをいい、医療機関からもらう領収書とは違うものです。
4回目からはさらに負担額が下がる
病気やけがの治療が長くなった場合は、「多数回該当」というものがあり、1年のうち(直近12か月)4回目からの高額療養の自己負担額がさらに下がります。高額療養費を受けた月が連続している必要はありません。所得区分に応じて70歳未満と70歳以上75歳未満では限度額が異なります。
高額療養費制度の注意点
食事代や先進医療などは対象外
高額療養費制度は健康保険の自己負担を軽減する制度のため、健康保険の適用外となる病院での食事代や差額ベッド代は対象外です。先進医療も高額療養費の対象からは外れます。
ちなみに、先進医療は厚生労働省が認めている健康保険の対象にするかどうかの検討段階にある医療行為で医療費が高額になるケースが多いです。例えば、がん治療の際の「重粒子線治療」は300万円以上かかり、実費負担になります。
申請期間には時効がある
高額療養費の支給申請の時効は2年となっており、申請書の到着からのカウントになります。高額療養費支給の対象世帯に、診療月から3か月後ぐらいに国民健康保険課から申請書が送付されることが多いです。
申請書の必要事項の記入と、医療費の領収書があればその写しを添付して申請します。70歳以上の外来の分は添付の必要はありません。
入院と外来の医療費は別の扱いに
同月中に同じ医療機関で診療を受けた時でも、外来と入院はそれぞれ別の扱いになります。そのため、事前に申請する限度額適用認定証も別々のものが必要です。外来受診で院外処方された薬代も処方した医療機関の医療費として合算できます。
まとめ
健康保険の適用となる範囲内の医療行為については、高額療養費制度を利用すれば医療費の負担を少なくすることが可能です。被保険者にとっては大きな社会保障制度の一つとなっていますので、仕組みを知り活用してみてはいかがでしょうか。