「そろそろ医療保険に入ったほうがいいのだろうか?」普段、保険の相談を受けていると、そんな声をよくお聞きします。しかし、そもそも医療保険は、私たちにとって絶対に必要なのでしょうか。「医療保険に加入しない」という選択肢はないのでしょうか。今回は、そんな素朴な疑問にお答えいたします。
目次
医療保険の不要論が叫ばれる背景
まずは、「医療保険は必要ない」とされる根拠について考えてみましょう。
特約など医療保険の適用条件が厳しい
保険でいう特約とは、基本保障に追加するオプションを指します。例えば、入院1日あたり5千円の基本保障に加え、3大疾病(※1)による治療の場合に50万円の一時金を受け取れるというものです。
しかし、例えばもし急性心筋梗塞で治療を受けても「医師から60日間仕事を制限される」という条件が設定されており、その条件に該当しなかった場合は、一時金を受け取れません。このように、特約を追加しても、実際に受け取る上でのハードルが意外と高いことがあります。そのため、保険の必要性を検討する際には、しっかりと保障が受けられる条件を確認することが大切です。
※1 保険会社により異なりますが、一般的に「がん」「急性心筋梗塞」「脳卒中」を指します。
入院保障中心の医療保険が多い
民間の生命保険会社が販売する医療保険の多くは、入院および手術に手厚い保障をする商品です。一方で1回あたりの平均入院日数は、2007年が34.1日、2016年が28.5日(※2)と年々短くなっています。通院保障が追加されている商品もありますが、まだまだ入院後の通院のみが保障される保険が多いことも実状です。
入院を伴わない手術や通院による治療を受けた場合は、受け取れる給付金が全くない、もしくはわずかな金額にとどまるケースもあります。加入する保険によっては、治療の実態と医療保険の保障内容にズレが生じていることもあるので、注意が必要です。
※2 厚生労働省 平成28年(2016)医療施設(動態)調査・病院報告より引用
高額療養費制度が充実している
高額療養費制度とは、1ヶ月あたりの医療費があらかじめ決められた金額を上回った際に、その差額分があとで返金される制度です。そして健康保険に加入していれば、つまり保険証を持ってさえいれば、どなたでもこの制度を利用できます。
例えば、月収53万円未満の一般所得者の方で、1ヶ月あたりの医療費が100万円必要となった場合でも、約9万円の自己負担で済みます。この他に、入院した際の食事代や差額ベッド代(※3)がプラスされますが、実際の医療費と比較すると、かなり支出が軽減されます。毎月9万円程度の支出が貯蓄から可能であれば、場合によって医療保険は不要とも考えられます。
※3 個室を利用した際にかかる金額。病院により異なります。
会社員には傷病手当金の制度がある
企業にお勤めの方が、業務中以外の病気やケガ(※4)で仕事に就けない場合は、傷病手当金制度を利用できます。この制度は、連続して4日以上の休業が必要となった場合に、月収のおよそ3分の2に相当する金額を、最長で1年6ヶ月にわたり受け取れるというものです。
上記の制度を利用できれば、急な病気やケガに見舞われたとしても、いきなり無収入になるわけではありません。そのため、一時的な減収を貯蓄でカバーできるのであれば、あえて医療保険に加入しなくとも、一定の生活を送ることは可能です。ただし、国民健康保険には傷病手当金制度自体がありませんので、自営業者の方などはこの制度の利用ができません。
※4 業務中の病気やケガの場合は労災保険の対象となります。
医療保険が不要な人の具体的な条件
保険診療内での治療を考えている人
最初に「保険診療」と「自由診療」の違いを確認しましょう。保険診療とは、健康保険が適用になる通常の治療のことです。それに対して自由診療とは、厚生労働省が承認していない治療や薬を使用することをいい、治療費が全額自己負担となります。
病気やケガの際、保険診療のみで良いという方は、高額療養費制度を活用すれば、毎月最大9万円程度の支出で済みます。実際の支払いには食事代と差額ベッド代が追加されますが、それらについては以下にて説明します。
月々約9万円の負担を貯蓄で賄える人
前述のとおり、保険診療のみであれば毎月の支出は約9万円です。ある程度の貯蓄があれば、病院への支払いを現金で行うことも可能です。実際の支払いには食事代と差額ベッド代が追加されますが、そもそも個室を利用しなければ差額ベッド代はかかりません。また、食事代は1食につき360円(※5)ですので、短期の入院であれば大きな支出にはならないと言えます。
ただし、病気やケガの内容によっては、「保険診療」ではなく「自由診療」を選択したくなる場合もあるかもしれません。「保険診療」にとらわれすぎて、最善の選択ができない可能性もあるため、しっかりと検討をする必要があります。
※5 2017年11月現在の価格。2018年4月より460円に引き上げの予定。
差額ベッド代が家計を圧迫しない人
厚生労働省の「主な選定療養に係る報告状況」によると、2015年度の1日あたりの差額ベッド代の平均は6,155円です。もし病気やケガで10日間入院した場合、平均して61,550円が支払いに追加されますが、この支出が家計を圧迫しない生活状況であれば、医療保険に加入する必要はないかもしれません。
ただし差額ベッド代は、病院やお住いの地域によって大きく異なりますので、一度かかりつけの病院や地域の病院の差額ベッド代の相場を、事前に調べておきましょう。
どのくらい貯蓄額があれば安心?
ある程度の貯蓄があれば医療保険は必要ない可能性があるとお伝えしてきました。では、実際にいくらぐらいの貯蓄があれば医療保険は不要となるのか、具体例を挙げて考えていきましょう。
ケース1:20代独身の場合
結論:病気やケガの治療に使える貯蓄が100万円以上ある場合
理由:30日間入院したケースでも個室を利用しなければ、1ヶ月あたりの支出は約9万円+食事代32,400円(360円×90食)で約13万円です。
もしも半年間という長期療養が必要な場合でも、約91万円の支出で済みます。また傷病手当金制度を利用すれば、一定の収入を確保することも可能です。ただし、貯蓄が100万円だけの場合には、その後の生活に支障が出る可能性もあるため、貯蓄の総額は100万円よりも多くないと、安心はできないかもしれません。
ケース2:30代家族ありの場合
結論:病気やケガの治療に使える貯蓄が150万円以上ある場合
理由:必要となる支出は上記と同様です。
ただし、配偶者やお子様も含めて入院する可能性を考慮すると、独身のケースよりも少し多めの準備が必要だと言えます。それでも、もともと持病をお持ちであるケースを除けば、独身の方の1.5倍程度の準備があれば、保険に入っていなくても、なんとか生活を維持できる可能性があります。
まとめ
日本には公的な医療保険(健康保険)や高額療養費制度がありますので、貯蓄が十分にある方でしたら、民間の医療保険は必要ないかもしれません。一方で、「貯蓄が少なく、いざというときに医療費を捻出するのが難しい」といった事情や、「がんになってしまったら、先進医療を受けて治療したい」「入院するとなったら、できれば個室ベッドがいい」という希望がある方は、自分で医療保険に入ることでカバーできます。まずは家計の状況を把握し、万が一のときにどのような治療を受けたいかをイメージしてから、医療保険の必要性を判断するとよいでしょう。