介護保険制度には「65歳以上しか介護サービスを受けられない」というイメージを持っている人が少なくないかもしれません。しかし、40〜65歳未満の人であっても所定の条件に該当すれば介護サービスを受けることができます。「もしも」の時に備えて、介護保険制度の知識を広げておきましょう。
目次
特定疾病なら介護保険の利用が可能
介護保険制度は、介護が必要な人が必要な時にサービスを利用することができる制度です。65歳以上の人であれば、介護を要する原因に関係なくサービスを受けることができます。
また、加齢にともなう体の変化が原因で介護が必要な状態になった40〜65歳未満の人も、規定の要件(特定疾病)に該当していれば介護サービスを利用することができます。
介護保険制度における特定疾病の定義
介護保険における特定疾病とは、体の病的な加齢現象によって要介護状態の原因障害が生じたと認められる疾病のことです。加齢が有病率や罹患率に関係していること、要介護状態・要支援状態が3〜6カ月以上の間継続する割合が高いと考えられる疾病であることが前提要件となっています。
全16種類の特定疾病を個別に解説
介護保険法による「特定疾病の範囲」は次のとおりです。(すべての症状について、医師の検査・診断により特定疾病の基準を満たすことが証明され、認定審査会で認定された場合のみ、介護保険が適用されます)。
1. がん(がん末期)
がんの種類は問いません。しかし、医師によって回復の見込みがない状態に至ったと判断されたものに限ります。これまでの例として、余命が6カ月ほどと判断された時に適用されるケースが多くなっています。
2. 関節リウマチ
免疫の働きに異常が生じることで、関節に炎症が起こる病気です。骨や軟骨組織が破壊されるだけでなく、関節の炎症が肺や全身に広がることもあります。
3. 筋萎縮性側索硬化症
「ALS」といわれる病気で、筋肉の萎縮や筋力の低下などの症状が急速に進行する病気です。運動神経細胞が侵され、進行すると歩行や呼吸が困難になることがあります。
4. 後縦靱帯骨化症
背骨をサポートしている後縦靱帯という部位が分厚く硬くなる症状で、脊髄が圧迫され、神経障害が起こったり歩行が不自由になったりする場合があります。
5. 骨折を伴う骨粗鬆症
骨密度が低くなることを骨粗鬆症といい、ちょっとした転倒で骨折したり、折れた箇所の回復に時間がかかって寝たきりになってしまったりする例が増えているといわれます。骨折をする前でも、骨密度の検査結果によってリスクが認められれば介護保険が適用されるケースがあります。
6. 初老期における認知症
認知症の種類は問わず、詳細な検査をした結果として記憶障害や認知障害が認められれば、介護保険が適用されることがあります。ただし、アルコール性の認知症は原則として認められません。
7. 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病(パーキンソン病関連疾患)
進行性核上性麻痺は脳の一部分の神経細胞が減少し、転倒しやすくなったり、下方向を見にくくなったりする特徴があります。パーキンソン病では、震えや筋肉の固縮、姿勢保持障害といった症状が出現します。
大脳皮質基底核変性症とは、パーキンソン病の症状と大脳皮質症状(手を思うように使うことができない、動作がぎこちないなど)が同時に出現する病気です。この3つの疾病には、動きが緩慢になることや歩行困難になることなどの共通点があり、いずれも転倒リスクが高まる傾向にあります。
8. 脊髄小脳変性症
後頭部の下側にある小脳の異常で、歩行時のふらつきや手の震え、運動失調などが見られることがあります。呼吸・血圧調整・自律神経などの障害をともなう場合もあります。
9. 脊柱管狭窄症
背骨の神経を囲む脊柱管という部分に狭窄が起こることにより、痛みや痺れの症状が現れます。歩行障害が進行するケースもあります。
10. 早老症
実年齢より老化の兆候が早く出現する疾患の総称で、「早期老化症」ともいわれています。症状の進行は疾病の種類や個人差に左右されます。早老症には10種類の疾病が含まれており、その中の1つであるウェルナー症候群は患者の6割が日本人であるという報告もあります。
11. 多系統萎縮症
自律神経障害・パーキンソン症状・小脳性運動失調といった3つの系統の病変や症候が、さまざまな割合で出現します。診断には医師による精密な検査が必要となります。
12. 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
この3つの症状は、高血糖の状態が継続することで起こる糖尿病の合併症です。手足のしびれや痛みなどの神経障害、下痢と便秘の繰り返しなど、さまざまな症状がみられます。中でも自覚症状が乏しい腎症や網膜症を発症すると、人工透析や失明につながる場合もあります。
13. 脳血管疾患
脳の血管トラブルによって脳細胞に障害を及ぼす病気を総称して脳血管疾患といいます。介護保険では「加齢にともなう疾患」を対象とするため、外傷に起因する脳血管系疾患は認められていません。
14. 閉塞性動脈硬化症
主に下肢へ動脈硬化が起こる血管病です。下半身の血液が不足するため、痛みや歩行障害を引き起こします。場合によっては足の切断につながるケースもあります。
15. 慢性閉塞性肺疾患
慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれる病気の総称です。タバコの煙などの有害物質を長期間にわたって吸入曝露した結果、肺やその周辺に炎症が出現します。日常動作でも息が切れやすくなったり、咳や痰が出たりするのが特徴で、喘鳴や発作性呼吸困難などの症状を合併することもあります。
16. 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
膝の関節や股関節が変形する症状です。痛みが出たり、歩行や関節の曲げ伸ばしに支障をきたしたりする場合は特定疾病とみなされる場合があります。
特定疾病による介護保険の適用申請方法
介護保険の適用申請に関する手続きを紹介します。市区町村によっては順序や必要書類が若干異なっている場合があるため、事前に窓口などへ問い合わせておくことをおすすめします。
1.介護保険の適用申請を行う前に、特定疾病に該当するかどうか主治医へ確認します。該当の可能性が高いと判断された場合には、介護保険の適用申請へ添付する「意見書」の記入を依頼します。
2.市区町村の介護保険担当の窓口で申請手続きを行います。「印鑑・健康保険被保険者証・意見書・主治医の存在を証明できるもの(診察券など)」が必要となるため、忘れずに持参しましょう。
3.手続き終了後、調査員が自宅を訪問し、特定疾病に罹患している本人の状態や家族へのヒアリングを行います。なお、申請手続きから訪問調査までには一定の期間を要する場合があります。
4.訪問結果や意見書をもとに要介護度の一次判定が行われ、判定結果と主治医の意見書にもとづいた介護認定審査会で二次判定が行われます。
5.判定通知が自宅へ届きます(申請から判定の通知までは原則30日以内)。通知には「非該当」「要支援1・2」「要介護1〜5」いずれかの結果が明記されています。
内容に不服がある場合は、認定が下りてから60日以内に不服の申し立てをすることができます。しかし、改めて判定を申請すると結果が出るまでにまた数カ月を要するため、「変更申請」を行うとよいでしょう。この手段を用いると、30日程度で新たな認定結果が得られます。
6.判定内容が「要支援1・2」の場合は「地域包括支援センター」へ、「要介護1〜5」の場合は「居宅介護支援事業者(ケアプラン作成事業者)」へ、それぞれ介護サービス計画書(ケアプラン)の作成を依頼します。
7.ケアプランに基づいた介護サービスの利用が可能となります。
まとめ
40〜65歳未満の人が介護保険適用となる特定疾病について、理解は深まったでしょうか?詳細な判断は医師や認定審査会に委ねるしかありませんが、特定疾病に該当する可能性のある人が身近にいる場合、まずは介護保険の申請を検討してみてもよいかもしれません。