人が亡くなると、財産の相続やそれに係る税金の支払いが発生する可能性が出てきます。この記事では、あらかじめ知っておきたい相続や税金についてわかりやすく紹介します。
目次
相続財産とは?遺産との違いは?
相続財産と遺産の違いとは
亡くなった人(被相続人)が残した財産を、一般的に「遺産」と言います。「遺品」や「相続財産」と言われることもあります。
そして、被相続人が持っていた全ての権利・義務から被相続人の専属分を除外したものを「相続財産」といいます。例えば、年金を受けとる権利などは本人が亡くなっても誰かに引き継げるものではないため、相続財産からは除外されることになります。
相続に税金がかかる財産
相続した財産や、「遺贈」といわれる贈与(遺言書によって法定相続人以外に財産を相続させること)には相続税が発生します。預貯金や家、土地などお金に換算できる経済的な価値のあるものの他、以下も相続税の課税対象となります。
① 相続・遺贈で取得したとされる財産
死亡退職金、被相続人が保険料を支払っていた保険の死亡保険金を含みます。
② 3年以内に贈与で取得した財産
相続財産の価額に、贈与された時の価額を加算します。
③ 相続時精算課税が適用される贈与財産
相続財産の価額に、相続時精算課税の対象となる財産を贈与で取得したときの価額を加算します。
④ 農地や株式など
生前贈与を受けて贈与税を猶予されていた農地や非上場の会社の株式なども相続税の対象となります。
相続財産にはどんな種類がある?
葬儀費用
葬儀費用とみなされる支出は、相続財産から控除することができます。葬儀にかかる費用には、税金の課税対象になるものとならないものがあります。
【葬儀費用とされる費用(控除の対象)】
① 死体の運搬や捜索にかかった費用
② 遺体や遺骨の回送費用
③ 葬儀の時の読経料や火葬費、納骨などの費用
【葬儀費用とされない費用(控除の対象外)】
① 初七日や法事の費用
② 香典返し
③ 墓石など墓地の費用
不動産や預貯金
土地・建物・畑などの不動産や銀行の預貯金だけでなく、国債・株券などの有価証券も相続財産に該当します。相続するにあたっては遺産の分割方法や相続税などの問題が発生する可能性もあるため、相続財産の内容はきちんと知っておきましょう。
不動産については、事項証明書や固定資産税の台帳から登記を把握することができます。預貯金については、通帳確認に加えて、被相続人死亡日の残高証明書を取得しておくとよいでしょう。株式・有価証券は証券会社からの送付書類などをもとに口座を調べることができます。
マイナス財産
相続財産には、前述のような「プラスの財産」だけでなく、借金などの「マイナス財産」も含まれます。クレジットカードでの支払いや消費者金融からの借り入れがある場合は、以下のような信用情報機関へ債務調査を依頼する必要があります。
JICC(株式会社日本信用情報機関):消費者金融・信販会社の信用情報
CIC(クレジットインフォメーションセンター):クレジット会社・信販会社の信用情報
JBA(一般社団法人全国銀行協会):銀行と銀行系のカード会社の信用情報
生命保険金は受取人による
生命保険金については、「受取人が誰に設定されているか」によって状況が変わります。相続人のうちの誰かが受取人である場合は「その人固有の財産」とみなされ、相続財産にはあたりません。また、受取人が単に「相続人」とだけ指定されている場合も「相続人固有の財産」とみなされるため、相続財産とはなりません。
被相続人が契約者でかつ被保険者であり受取人にもなっているときは、被相続人固有の財産(保険金を請求する権利)となるため、相続財産に含まれます。
相続財産の遺留分とは?
遺留分とは
原則として遺産は法定相続人が相続するものですが、遺言や贈与の有無によっては受け取れないケースも発生しかねません。そのような事態を防ぐため、民法では「一定の範囲内の法定相続人に法定内で決められた最低限の遺産を取得できる権利」を認めており、これを「遺留分」と呼びます。遺言よりも遺留分の方が高い効力があるとされていますが、遺留分の権利を主張しないと権利は行使されません。
生前贈与が行われている場合
生前贈与があったとしても、遺留分の請求は可能です。「被相続人の死亡日より前1年間の贈与」については、遺留分の計算をするときの財産とみなされるためです。相続開始から1年以上前の贈与であっても、「遺留分を侵害することを知った上で贈与が行われたもの」とみなされれば遺留分の基礎財産に含まれます。また、特別受益とされる結婚資金・住宅取得資金としての贈与などは、贈与の年月に関係なく遺留分の基礎財産となります。
相続人の範囲や割合を確認
遺留分の権利は「配偶者・子供・直系尊属である親」にあり、兄弟姉妹には原則として認められていません。遺留分の割合については、それぞれ以下の通りです。
① 相続人が配偶者と子供(2人)の場合は法定相続分の1/2
配偶者 1/2×1/2=1/4
子供それぞれ (1-1/2)×1/2×1/2=1/8
② 相続人が配偶者と両親(父・母)の場合は法定相続分の1/2
配偶者 2/3×1/2=1/3
両親それぞれ (1-2/3)×1/2×1/2=1/12
③ 相続人が配偶者のみの場合は法定相続分の1/2
配偶者 100%×1/2
④ 相続人が子供のみ(3人)の場合は法定相続分の1/2
子供それぞれ 1/3×1/2=1/6
⑤ 相続人が両親のみの場合は法定相続分の1/3
両親それぞれ 100%×1/2×1/3=1/6
⑥ 相続人が配偶者と兄弟の場合は相続財産の1/2
配偶者 1/2
兄弟それぞれ なし
「遺留分に関する民法の特例」とは
事業継承を健全に行うため、遺留分には特例が設けられています。遺留分の権利を行使することで株式の分散などを招き、安定した事業の運営から外れてしまうようなケースも考えられるためです。
遺留分に関する民法の特例を適用させるには、将来相続人となり得る人たち全員の合意が必要です。合意の方法については以下の3種類があります。
【除外合意】
「生前贈与された財産を遺留分の基礎財産から除外すること」に対して相続人全員で合意を行うことです。
【固定合意】
「後継者が贈与した株式などの評価額を合意したときの額で固定すること」に対して相続人全員で合意を行うことです。弁護士や税理士・公認会計士などによって「評価額が適正である」と証明されていることが条件となります。
【付随合意】
「特定の財産を遺留分の基礎財産から除外すること」に対して相続人全員で合意を行うことです。除外合意もしくは固定合意とあわせて行われるもので、付随合意が単独で実施されることはありません。「特定の財産」とは以下を指します。
1) 後継者が贈与を受けた株式等以外の財産
2) 非後継者が贈与を受けた財産
財産目録を作成する意味や方法は?
「財産を隠す」などのトラブルを防ぐ
相続財産を表にまとめたものを「相続財産目録」と言います。作成の義務はありませんが、相続手続きや相続税の算定をスムーズに行えるメリットがあります。
また、目録を作成しておくと、相続財産がどれだけあるのか一目瞭然となるため、隠された財産をめぐる相続人同士のトラブルなども回避することができます。
まずは相続財産を調査
相続が発生した際、まずは戸籍謄本などから相続人を確定し、相続財産がどれだけあるかという調査を行う必要があります。多額の借金など「マイナスの財産」が発覚すれば、相続放棄の意志決定なども行いやすくなります。
相続手続きには期限が設けられているものがあります。相続放棄については「相続開始を知った日から3ケ月以内」に意思表示を行い、相続税の納付については「相続開始を知った日から10ケ月以内」に納付・申告を行わなければならないことになっています。これらの手続きを速やかに行うためにも、正確に相続財産を把握し、目録作成などによって開示しておくことが重要と言えます。
規定書式はなく司法書士への依頼もOK
相続財産目録を作成するにあたり、決められたマニュアルや書式などはありません。インターネットなどで書式を検索し、自分で作成することもできます。
預貯金・不動産・借金など、相続財産が多岐にわたって目録の作成が困難と考えられる場合、司法書士に依頼することも可能です。費用は発生するものの、より確実性の高い財産目録を作成したい際などにはよい方法と言えるでしょう。
まとめ
相続財産に関するさまざまな情報を紹介しました。知識として知っておくだけでなく、いざという時にはきちんと対応できるよう、財産や相続について一度考える機会を設けるのもよいかもしれません。自分だけでは難しいことに直面した場合には、弁護士や司法書士などの専門家を頼りましょう。