日本には公的年金制度があり、20歳以上の全ての人に加入が義務付けられています。その中の厚生年金については、離婚した際に適用できる「分割制度」というものがあります。今回は、その適用条件について解説します。
目次
離婚の際の年金分割制度とは
年金記録を分割する制度
婚姻している夫婦であり、かつ厚生年金や旧共済年金に加入している人の場合、保険料は給料から天引きされます。被扶養者は扶養者よりも給料や年金保険料の支払い額が少なく、給料の多い扶養者に支払いが偏るケースも多くなっています。そのため、年金分割制度では、年金記録を分割することによって支払い実績の偏りを小さくすることを目的としています。
自分の受給資格を満たすことが必要
離婚が決定し、これまでの支払い実績の分割が実現されたとしても、その後の保険料の支払い義務を果たさなくては年金の受給ができません。年金受給開始年齢である65歳までは自分の分の保険料を支払い続ける必要があります。また、年金の受給権が発生するために必要な支払い期間は原則として25年であるため、それ以上の実績が必要となります。
離婚時の年金分割制度の種類
合意分割
公的年金の分割制度には2種類あり、その1つ目が合意分割です。
合意分割とは、「互いの合意に基づき、婚姻中にそれぞれが加入していた厚生年金制度について分割割合の上限を1/2とする」という制度です。1/2の割合で分割した場合、夫婦の年金保険料の支払い実績は50%ずつ平等に分けられることになります。
3号分割
2つ目の分割制度は3号分割と呼ばれるもので、この制度が導入されたのは平成20年の4月です。合意分割制度との違いは、強制力の有無にあります。
合意分割では夫婦の合意の元で分割が進められますが、3号分割では「第3号被保険者から請求があった場合、強制的に保険料支払い実績が1/2に分割される」ということになります。なお、第3号被保険者とは会社員や公務員として厚生年金に加入している人の扶養に入っている人を指します。
年金分割の対象は?
厚生年金と旧共済年金が対象
年金分割制度の利用対象となり得るのは、「現行の厚生年金制度に加入している人」です(現在は、公務員がかつて加入していた共済年金制度も厚生年金制度に統合されています)。例えば、夫が厚生年金加入者であり、妻が被扶養者の条件から外れて自分で国民年金保険料を支払っているようなケースは、年金分割制度の対象とはなりません。
国民年金や上乗せ部分は対象外
国民年金加入者や厚生年金の上乗せ部分については、分割の対象外となります。上乗せ部分とは、報酬比例部分に該当し、所得水準が大きくなるほど保険料額も大きくなります。その他、国民年金基金や確定給付企業年金などによる実績も分割の対象外となっています。
合意分割制度の手続き方法
①年金分割のための情報提供通知書を入手
合意分割制度を利用する際には、主に3つの手順を踏む必要があります。1つ目は「年金分割のための情報提供通知書」を入手することです。最寄りの年金事務所に出向き、「年金分割のための情報提供請求書」と呼ばれる書類を提出することで発行してもらうことができます。ただし、請求してから書類が手元に届くまでには3、4週間程度の日数が必要となるため、覚えておきましょう。
②按分割合を決定
次に、夫婦間で保険料の支払い実績の按分割合を決定します。決定の方法は、夫婦間の話し合いで決める場合と裁判所を利用する場合の2通りがあります。話し合いで決める場合、入手した「年金分割のための情報提供通知書」で定められている按分割合の範囲内で、双方の合意によって決定します。
一方裁判所を利用する場合は、家庭裁判所による調停・審判・裁判の3段階を踏むことで按分割合が決定されます。
③年金分割の手続き
按分割合を決定したら、年金の分割手続きを行います。手続きのためには、「標準報酬改定請求書」と呼ばれる書類を提出する必要がありますが、申請が通るためには離婚手続きが成立している状態でなくてはなりません。
離婚には、協議離婚・調停離婚・審判離婚・裁判離婚の4種類があります。協議離婚の場合は、「年金分割の合意書」と呼ばれる書類と夫婦の戸籍謄本、年金手帳を用意して年金事務所で手続きを行いましょう。他の3種の場合は、裁判所によって決定された謄本と夫婦の戸籍謄本、年金手帳を用意して年金事務所へ出向きます。
3号分割の手続き方法
必要書類を揃えれば合意は不要
既に離婚が成立している、もしくは離婚を検討している夫婦については、合意を形成するための話し合いを行うことが難しいケースもあります。そのような場合、3号分割制度であれば必要書類を全て揃えることが出来れば夫婦間の合意が不要となります。ただし、前述の通り、按分の割合は1/2で固定されているため、任意で変えることはできません。
手続きの期限は2年
年金保険料の支払い実績を分割する場合、その手続きは離婚が成立してから2年以内に行わなくてはなりません。手続きの方法や必要書類については、すでに紹介した通りです。
死亡した場合は1ヶ月以内に短縮
例外として、厚生年金制度の加入者であった人が死亡した場合には、手続き期限が1ヶ月以内に短縮されます。死亡したのが扶養者である場合、保険金や葬儀の手続き等で多忙となることも考えられます。分割制度の利用を考えているのであれば1ヶ月という期限内に手続きが行えるよう、年金事務所などへ相談してみましょう。
まとめ
厚生年金制度に加入している扶養者を持つ場合、一定の条件の元で保険料の支払い実績を分割することが可能です。申請には期限が設けられているため、締め切りを意識して手続きを進めましょう。